造形美と色彩感覚、この類稀過ぎる二つ感性はやはり後のBerlutiに吸収された新体制では受け継ぎ切ることはできなかったのでしょうか。会社も時代も文化も違うので仕方ないと言えば仕方ないのでしょうが唯一無二の文化力が失われてしまったと思うとANRYSが消える当時に“買収なんかさせずに国が守るべきだった“と悲しみつつ怒っていたパリの友人の姿を思い出します。
造形美も好きだけど私は色彩感覚が一番好きな要素かな。創始者の奥さんが日本人だったから着物からの影響も大きかったという点も含めてシックなトーンもヴィヴィッドなトーンもペールなトーンも単体はもちろん組み合わせの感性が本当に唯一で無二、スタンダードでシンプルに組み合わせるのが好き(と言うかそれしかできない)身としては一着が放つ妖艶さだったり癖者感だったり明快に美しいオーラは本当に楽しいです。
これはテーラードジャケットのプロダクトバランスなのですが、物としてはハーフコート。しかもフォレスティエールのように室内で着たままでも支障がないカバーオール的概念と構築と設計かつフォレスティエールのように着る人を選ぶ(万人向けではないからこそハマると強い)シルエットバランスではなくスタンダードで王道的スタイリッシュさを秘めたテーラーメイド。
気軽に羽織れて気楽に過ごせてスタンダードに綺麗なスタイル性でリネンコットンの清涼感溢れるテクスチャーで優しさの中にしっかりと色の個が光るという控えめに言って相当に優秀な一着。この楽チン感なんかANRYSを当時楽しんでいた人々の全体的な世界観をまんま現していて、やっぱりそうですよねと合点がいく感じも大好きです。
New arrival,90s ARNYS linen cotton half coat.
もう一度言いますがテーラードジャケットではなくハーフコート、しかも室内で着ていても不自然じゃない気楽な羽織りです。それこそ当時楽しんでいた人々はほとんどがシャツでタイドアップでドレス系のトラウザーなのかな、革靴なのかな、ポケットチーフなのかな。もちろん言うまでもなく抜群な世界観だけど私は絶賛カジュアル勉強中とあってファイヴポケットパンツやジーンズが特に気分なのでARNYSの世界観と言えど今のカジュアルで合わせたいのですが、当時の人々からしたら眉をひそめる着方なのでしょうか、まぁいいけど。それこそ13年ぶりにスポーツスニーカーに惚れることができてよりカジュアルテンションが上がっているんですから!出張のたびに実用品として必要性をしとどに感じ幾度となくアレ買おうかとかコレで良いかとか思いあぐねていたんですが、適当に買わなくて本当に良かった。まだヴィンテージジーンズと合わせる勇気はないけどこれからの気分に合わせて色々と楽しみたい。もちろんARNYSともね。
SURR 福留
△
イタリーモードの最古参であるヴァレンティノ・ガラヴァーニ。各国(やはり主に本国イタリア)のコレクターの協力もあってそのヴィンテージプロダクトと出逢えば出逢うほどいかに偉大なファッションデザイナーであったかモード史に置いて重要な人物かをスルメのごとく噛み締めててじんわりかつ確かに味わって年々好き度合い尊敬度合いが高まっておりますので、先日のアレッサンドロ・ミケーレのディレクター就任のニュースはやはりヴァレンティノを大いに盛り上げてくれるのではないかと喜ばしく思うと同時に、ヴィンテージカルチャーにしっかりと敬意を評する人物なので1959年から2007年と約半世紀に渡って展開されたヴァレンティノ・ガラヴァーニ大先生の作品群をどのように再解釈するかが楽しみな次第で、まだまだ私の中でのヴァレンティノ愛は高まっていきそうな予感ムンムンです。
構築的なサドルショルダー、綿密に配置されたダーツ、テーラードジャケットの襟元とボンバージャケットのスタイルを融合させた抜群の個性、全体に及ぶ立体美、心が洗われるような美しい裏地(ポケットの中まで同じく)、そして一目で品位が伝わる圧倒的に上質なラムレザーのエナジー。80年代にPelle(レザー専門)のクリエイションラインから発信されたこちらの新作も本当に本当に見事でして、もちろんラベルにValentinoの文字が刻まれていますのでデザイナーズクリエイションのそれということは認識できますがこちらに関してはそれを認識する前段階の佇まいから何かを感じて頂ける方、きっと居られると信じたい一着です。
New arrival,80s Valentino Pelle lamb leather design bomber jacket.
先日のMilletもそうですが、ラベルでもネームでもなくまず強烈に心惹かれるような出逢いはSURRに成った2014年4月29日から現在に至るまで変わらず稀有。いや時間が経つごとに高まっているな、間違いなく。
SURR 福留
△
前回のDiaryのように私はこれまでに幾度かミウッチャ・プラダというファッションデザイナーを心から愛しオタクのように楽しんできたことを書いてきたと同時に、何度か2018年が彼女のキャリアハイに感じていることと新たにラフ・シモンズが加わり世界観が変化したことで、何年も続けてきた“毎シーズンPRADAの新作を楽しみにし、あわよくば何かを手に入れる“という私にとって極めて重要なルーティーンが終わりを告げたことを書いてきました。もちろんラフ・シモンズの加入は多くの人々にとって喜ばしい出来事であり事実業績も上がり2022年(2023年だっけ?)なんかは注目度が高まったファッションブランドの第一位として挙げられるなど、より多くの人々が楽しんでいることと思いますので、私が愛する愛するPRADA Uomoから離れたのは単純明快に私の好みと気分。ただただ、ただただそれだけの話です。
しかしながらついに、ミウッチャ・クリエイションではなくミウッチャ&ラフ・クリエイションでバババチコンとくる一着に出逢えました!
23SSマルチポケットベスト、本当にバババチコンとグググッときました(あのビジュアルも大好きです、まんまカー⚪︎ートのあれ)。ファッションを楽しむ方の中にはこういう系はもう何年も前に流行ったじゃんという見解も有られることと思いますが私はその頃から今に至るまで全くもって惹かれなかったんです、これ系のベスト。もちろんお召しになっている姿そのものが素敵な方は沢山おられましたが、自分が着るプロダクトではなかったというか何というか、SURRという容れ物で御提案するビジョンもほとんど浮かびませんでした。
でもこれは大好き、堪らない。PRADAだから?もちろんその看板を背負っているからというのもありますがそれだけではないぞと、直感的に思いそれが何なのかクエスチョンの正体は何なのか心の片隅で考えていた時、パリのコレクターの元で出逢った一つのプロダクトが答えを教えてくれたのです。
私は全くと言って差し支えないほどにアウトドアカルチャーに触れてこなかったのでミレーというブランドのことを知りません、ミレーって口に出したこともないかもしれません。このプロダクトに出逢って初めて知りました、フランスのブランドであることや100年近く続いていることや主に鞄を製作していることなど。この口ヒゲのおじさんが描かれたMountain Flight by Milletが一体全体どういう存在なのか、正直に言って知りませんがとっても格好良いプロダクトだと思ったし素直に滅茶苦茶着たいなと見た瞬間に一目惚れしてしまいました、こういう便利ギア系そのものを着たことがないにも関わらず。そのきっかけが23SS PRADA Uomoであることは間違いありませんが、それと同等のエネルギーでこのマルチポケットベストに惹かれたことによって心の片隅のクエスチョンが解けました。
New arrival,80s Millet multi pocket vest.
“お前が惹かれた理由、それは品の良さだろう?“ 口ヒゲのおじさん、教えてくれてありがとう。あの頃のマルチポケットベストは私にとってリアルではありませんでしたが、23SS PRADA Uomoとこのヴィンテージ・ミレーのマルチポケットベストはリアルもリアル、大リアル。タフギア感満載でクラシックでヴィンテージ感を備えていますが、意匠の絶妙な洗練性とバランスとちょっと薄ピンクを感じさせてくれるカラームードによって隠そうとしても滲み出てしまう、モード本国のDNA。
どうなっても結局私は品が良いのが好きみたい。
SURR 福留
△