Fencing-style / Diary1409
29.5.2026

フレンチプレタポルテモードのパイオニアからイタリアンモードのパイオニアにバトンを繋げるのは弊店にとってごく自然なことですが、シンボリックなトレンチコートに続くとなると相当な重積であり容易にバトンを繋げるべきではありませんが、幸いそれが叶う一着がありました。まだまだ“男性のモード”という土壌が豊かになる以前の、端的に言えばまだ受け入れる人々が少なかった時代,80年代初頭の一着です。

 

 

モードカルチャーと異なる文化要素を取り入れることで新しいスタイルを生み出すロジックは前時代のオートクチュールから定石ですが、フェンシングSTYLEというのは近代に至るまで一貫して新鮮。分野で言うとスポーツカルチャーになるのでしょうか、剣闘という独自の観点からなる様式はこのように当てはめられると驚くほどモードデザインと親和性が高いことが解りますし、ファッションスタイルとしての豊かさを認識できます。

ヴァレンティノ・ガラヴァーニにおけるスポーツジャケットなんて炊き立て新米土鍋ご飯と辛子明太子のごとく絶対的な好相性ですがこちらはスポーティーでありながらドレステーラー的な強い構築でして、カジュアルにあえて振り切らない緊張感もまた特に古いメンズクリエイションならでは。身体に吸い付くようなフィッティングと滑らかなコットンの素材表情,カッティングエッジな機能性意匠,袖付けの大胆さ,ネイビーとブラウンのカラーコントラスト,丸さとコンパクトな収まりのバランス。オリジナリティーと創造性の度合いからフレンチモードと双璧を成すイタリアンモードの祖たるゆえんを改めて御認識頂けることと思います

 

 

 

 

 

New early80s Valentino Uomo fencing-style bicolor cotton jacket

 

イタリアの僻地のコレクターの元で出逢った時に“こりゃとんでもないぞ”と興奮しましたが改めて向き合うとそれどころではなかったです。服飾史と向き合うことを生業とする私としては歴史的観点を踏まえた求心力がありますし拙いながら構築を踏まえた特性の論点が挙げられるものの、着た時にまず服飾史うんぬんも構築特性うんぬんも関係無い,言い方悪いですがそんなんどうでもよくなるほどのシンプルかつ圧倒的な格好良さをストレートに味わえるというのが素晴らしい、先のムッシュのトレンチコートも全くもって同じくでした。

弊店にとってヴァレンティノのメンズクリエイションは主戦力の一つですが、ここまで古い個体はなかなか出逢えず創造性という点においてこれほどの濃度はほとんど皆無、ゆえにこちらも紛れもないCを代表するCです。

 

 

SURR 福留

Cを代表するC / Diary1408
22.5.2026

モードカルチャー過渡期の1969年にひっそりと産声を上げ10数年という短い期間で幕を閉じた“ムッシュ・サンローランによる”Yves Saint Laurent Rive Gauche homme、以前は本国の専門的なコレクターですら認識していないため当然ながらヨーロッパ各国において市民権を得まくっているVintage Yves Saint Laurentにも関わらずふとした相当に幸運な瞬間にしか出逢えない、それこそ2017年にサンローラン財団がミュゼを設立した時に1969年からと知ったほどにそもそもにおいて資料すらほとんど残っていない、仰々しい言い方になってしまいますが弊店にとっては幻の存在であり伝説的な存在価値であり、出逢えた際には特級に扱わざるを得ないのが“ムッシュ・サンローランによる”Yves Saint Laurent Rive Gauche homme。きっとその扱いはこれからも変わらないと思います、だって10数年前に存在を認識した頃から出逢いの確率が変わらないんですもん、10数年前に例えば年に1〜2着だったとしたら今も年に1〜2着。時が経っても“無さ”が全然変わらない、と言うかずっと無い、厳密に言うと年に1〜2着も無い。減り続けて然るべきなヴィンテージという世界にも関わらず無さがずっと一定というなんだか不思議な存在、まぁもちろん正確には減り続けていることは間違いありませんが。

 

 

ムッシュの偉業はそれこそミュゼを訪ねれば実物を拝見できるし氏の人生も幾つか映画にもなったくらいですし過去Diaryでも何度か触れてきたのでここに細かく記すことは控えますが端的に言うとムッシュのクリエイションで男性用のトレンチコートというのもまた大事件です。良い意味で時代を感じさせる大きな襟を筆頭に各所拡大された意匠,ハンティングやワークなどのタフカルチャーを想起させるパターンメイクにポケット設計,だけど当然のごとく圧倒的にエレガントなスタイル像,裏表が同素材=無双仕立手という贅沢。究極のクリエイションっていつもなんだかんだで自然体と言うかサッパリしていると言うか、爽やかなのよね。

 

 

 

 

 

 

New late70s Yves Saint Laurent Rive Gauche homme “MUSOU”cotton design trench coat

 

最近また考えたんですよねファッションの価値や評価に関して。まぁ正直考えなくていい事柄と言うかそれに囚われるとアレだったりシンプルに楽しくなかったりもするのですが、そこを考えるのも仕事っちゃ仕事なので。【A:沢山存在していて価値(評価)が高い、B:沢山存在していて価値(評価)が低い、C:ほとんど存在していなくて価値(評価)が高い、D:ほとんど存在していなくて価値(評価)が低い】、ヴィンテージという有限資産の世界に居るとこのAからDが判断の軸の一種になることがあるのですが、もっとAとCの差異を意識して重要に捉えなきゃなって。価値が評価が高いから偉い・凄いではありませんが、服飾史に敬意を払うにあたっては価値や評価を無かったことにはできませんし私の中ではCは特に心動かされること多いので、今まで以上に意識して重要に捉えなきゃなって。このトレンチコートは至極当然C、Cを代表するCね。

 

 

SURR 福留

一世紀の説得力 / Diary1407
19.5.2026

“公文書用鞄”と名付けられたHermesバッグプロダクトSac a Depechesはジュエリーのように美しい錠前パーツを象徴として主に男性用バッグとして長らく愛され続け、生誕から一世紀を目前とした現在もハンドルタイプではなく身体に寄り添わせる“Messanger”の呼称のアップデートVer.が人々をキュンキュンさせていますが、遡ること40年ほど前にも同じ感覚チャンネルで製作された名作個体が一時代のみ存在していました。

 

 

錠を開くと展開するフラップの内側にはメインポケットの他に二箇所のスリップポケット、そして背面にも配置された一箇所のスリップポケット。オリジナルSac a Depechesを彷彿とさせる実用意識,特に露出した背面のスリットポケットがもたらしてくれる機能性という名の豊かさは想像し尽くすことが叶いませんが、人生の様々なフェイズで常に変化し続ける使いやすさと有用性ながらこれらはいつのフェイズにおいても常に有難い要素性で在り続けてくれることを私は確信しています。ある時は程良く有難い、またある時は猛烈に有難い。ちなみに鍵の開け閉めに加えてフラップの開放に一手間を要すると錠前ですが面倒であれば閉じなくてもしっかりと覆い被さってくれて本体とストラップの重心もずれないので日常的な範疇であれば無理なく活動可能、この点は実際に御体感ください。

 

 

ある程度収納力の上限が決まっているのでストラップの結合はこれで充分、ましてやこの点にも美意識を注いでくれる感性が嬉しくてなりません。W19cm×H28cmで特有の造詣システムゆえ身体にすっきりと収まり印象としても体感としてもコンパクトな鞄の範疇なのですが、マチの立体展開がとにかく秀逸なので見た目印象以上の収納力も魅力。ペットボトル一本はある程度膨らむものの無理なく入りました、二本は手持ちになかったので実験していませんがおそらくは収納可能だと思います。これも見事。

 

 

 

 

 

New 1992s Hermes Sac a Depeches “SACOCHE”

 

何よりもプロダクトデザインとして日常を彩る鞄という道具として格好良くて堪らない公用文書鞄のボディバッグVer.であるSACOCHEモデル。約一世紀製作され続ける名作の説得力とそれをアップデートした有り難さ,見事さ,堪らなさは筆舌に尽くし難いです。私は何よりもストラップを半分にしてハンドルにもできる機能性が素晴らし過ぎて仕方ないのでこれを発案したデザイナーに金一封と季節のフルーツおよび銘菓,河川蒸気を贈りたいところですが、まぁ彼ら/彼女ら、そしてHermes社としては“これくらいの気付き”は当たり前のレベルなのでしょう。

 

SURR 福留

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