インディビジュアルな世界 / Diary458
20.10.2017

 
 
 
ドキュメンタリー映画きっての雄、フラハティの「Man of Aran」
 
島唯一の蒸溜所から丁寧に送り出されるスコッチ「Arran Malt」
 
 
 
アラン諸島と直接的に繋がる情報をイメージしたとて、上記2つが限界。
とはいうものの、フラハティを知らなければ18ヶ月に渡って記録した過酷な生活状況を知る術もないでしょうし、シングルモルトが好きでなければBarすら入らず、マスターから蒸留所の話も聞けないでしょう。
 
 
 
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アイルランドの西岸、ゴールウェイ湾に浮かぶアラン諸島をダイレクトに思い浮かべるには「Alan sweater」がなにより。石灰質の岩盤のみで形成された島々で暮らすアイルランド人の主要産業は、農業、そして漁業でありますが、常に強風が吹き荒れる海上において男達の無事を祈り、将又、海の神に看取られた際に身元を特定するべく、女性達の手によって立体的かつ縄上に編み込まれた白いセーター。これが「Alan sweater」またの名を「Fisherman sweater」
 
 
6世紀も昔、あるいは1900年初頭と、その起源は諸説ございますが、少なからず、2017年10月20日今現在においてしましても、その島ではそのセーターが編み続けられていることも御含み置き頂きたい。
 
 
 
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どのようにして生まれ、どのようにして広まり、どのようにしてファッションとして根付いたのか。
 
その究明にあたり努力を続行してきた世界各国のファッションジャーナリストや研究者には頭が上がりませんが、今でも尚、“ 諸説ある ” と定言化が困難である区分でしょう。それほど、ある限定された土地の限定された歴史を読み解くというのはとてもセンシティブで、スタティックな内容であると感じます。シンボリックな存在としてのみ我々の脳裏に焼き付いているのは、やはりそういうことだと思うのです。
 
 
スコットランド人が愛用していたガンジーセーターを元手に編みの独創化が進んだ、や、
母親が息子のために教会の堅信礼にあたり、普段のネイヴィやオートミールではなく、晴れ晴れしい真っ白なセーターを編んだ、や、
とあるユダヤ人は、この見事なまでの装飾的な編みは聖人の賜物であると、独自の解釈論を講じて英国に広めた、など。
 
「善か悪か」の物差で突き詰めると、どの説も素直に「善」ですので、それはそれで良いのでしょう。
何を信じて、何を論ずるかは。
 
 
少なからず、ファッションの視点でいち早く着眼したのが、クリスチャン・ディオール氏であったことは、これも一説として記しておきます。
 
 
 
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その永くにわたり伝わってきた歴史の中で、文頭の説や、“ その編みは家紋を意味する ” などもございますが、たとえば母から娘、祖母から孫へ、仮に家紋としましても、その家紋の設計図は1枚たりとも存在せず、家庭料理や伝統料理のそれと同ベクトルで存在する内容であること。
 
縄の種類、織り幅や立体の高さ、厚み、長さ、それらイメージの具現化は、完璧に独立したインディビジュアルな世界。
 
家紋にせよ、男達の無事を祈った具現像にせよ、着るものを有効的に独立させるベクトルのみは共通で、それは恰もファッションの視点でさえも適う、純粋かつ洗練された個々の美しさに繫がりましょう。
その島の歴史と伝統を孕んだステージであると同時に、それらを渾然一体に身に纏うことで、その物語の一員になれる感覚は、仮にファッションにおいてでも、将又、ファッションとして括らずとも、有効的に認められる内容であるとわたくしは思います。
 
 
 
少なからず、そのストーリーとベクトルを全享受したか否かは、細かな説明やロジックやギミックなど決して必要ではなく、1着の編みと色、そして身体に沿わせたときに感じる匿名性のみで、事が足りましょう。
 
たとえそれが、1999年に発表された1着だとしましても。
 
 
 
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1999a/w Maison Martin Margiela tutle-neck Alan sweater
 
 
 
 
“ どのようにしてファッションとして根付いたのか ” この3番目のステージにおいて、立役者のひとりとなったことは、彼のクリエイションや他の作品に目を通す度に、やはりそうなのだろうと思います。
 
 
 
そしてここまでを頭の片隅におきながら、端正に編み込まれたアランセーターを身の纏い、どうぞオーセンティックバーへ。おそらくアランモルトを注文せずとも、とある島の蒸留所の話を聞かせてもらえるでしょう。
 
 
少なからず、この1着は。
 
 

 

 

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5/100ないし1/100 / Diary457
18.10.2017

仮に 100 人と相対したとして、そのうちの 50 人が褒めてくれる服と 5 人が褒めてくれる服があるとした時に、私は後者を好ましく思う傾向があります。厳密には傾向と言うよりも紆余曲折を経て後者のタイプを選ぶようになったのですが、元来周りから着ている服などを褒めて頂く機会がほぼ皆無なのでそもそもの論点として当てはまっておらず、極々稀に褒めて頂く機会があったとて “ えぇ、はぁ ” と誰も幸せにしない薄ら笑いを張り付けた全くもって気が利かない、褒めてくださった方に申し訳が立たない愚鈍な受け答えしかできない有り様ですが、しかしながら惚れ込んだ一着 ( 一点 ) があまり褒められない、もっと言ってしまえば “ それはちょっと ” とまで言われたとしたら私は逆に嬉しくも思います。なぜなら他者に認められない自分の感覚は ( 場合によっては最も ) 大切にしたいと思うからです。

そもそもの人間的素養が主たる理由ですが、私は “ 総柄もの ” を着ると評判が悪い傾向にありまして、しかしながら総柄は大好きな一つですので、やれ職務質問だ、やれセカンドバッグが合いそうだ、やれ電車で隣に座りたくないだ言われたとて決して心は折れず、5/100 ないし 1/100 のお褒めをささやかな心の励みにしながら、今後もカジュアルであったニットをラグジュアリーな存在に昇華させたミッソーニは私にとって重要なワードローブの一つであり続けることと、わざわざ我々が御紹介するまでもなく現代においても認められた存在ではありますが、ヴィンテージにおける良い意味でミッソーニ “ らしくない ” 存在価値と、上質で情熱的なアート・ニッティングワークの求心力を引き続き SURR にて御提案し続けますことを、僭越ながらここに誓います。

 

 

 

 

 

SDIM1907

80s Missoni

ちなみにこちらは素肌での御着用を心から御推奨。

 

 

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カシミアという繊維のニット / Diary456
17.10.2017

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約12cmほどの長毛の下に密生した白や灰色の柔毛(産毛)。凍てつく風が吹き荒れる極寒の地で、生態系を存続させるべく進化の末に獲得されたカシミアヤギの特性。
 
柔毛は細く、密度が濃く、がしかし軽く。なにより暖かく。
 
丁寧なケアリングにより豊潤な艶が出現する、その「繊維の宝石」は、毛の生え変わる限定的なシーズンのみ採取が可能で、1頭から収穫できる量はおよそ200g程度。収穫された柔毛は、繊維の細さや長さ、他毛の混入率などによりランク分けされ、厳しくもここで振るいに掛けられる。
 
「14ミクロン前後の細さ、35mm前後の長さ、0,1%以下の混入率」
 
これは、全5ランクある内、最上級と謂われる1級クラスの数値。
 
 
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例えばバランタイン社は、1級またはその上、特級クラスの柔毛しか使用しないことはご周知の通りですが、それほど上級にランク付けされる柔毛は、数値のとおり “ 細くて、短い ” が基本ですのでまぁ扱いづらいものでしょう。
 
詰まるところ、製品に仕上げるためには、呼応する確実な技術が必要なわけです。
 
 
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どうりで、バランタイン社の扱うニットは素晴らしいわけだ。それは横入りする隙間のないほど事実そのものであり、偽りもなく歴史が証明してきた内容でしょう。歴史など知らずとも目の前にある1着に触れればわかります。はっきり謂いまして、その光沢と柔らかさは本当に別次元。
 
 
一方で、イギリスの地で出逢いが叶ったとあるカーディガンは、摘みのよいボタンに穏やかなキャメル色。“ 細く、短い ” それらは、毛玉になりづらいという性質も持ち合わせているうえ、ブラシを滑らせるほど柔らかく、そして豊潤な艶、とろみが出現する特性。上級または1級クラスを扱うメーカーであることは容易に推測が叶うこれは、驚くべき事にアノニマスな内容でございました。
メーカーなど存在しない領域。存在してもしなくとも、どちらでも宜しいことですが、例えば10名のニットマニアが居たとして、内、9名は素晴らしい毛質だとお答え頂けると思います。これらの善し悪しの判別も、以前お話したソファーの一例に通ずるところで、質の良いソファーは質の良いソファーを知っているものしか分からない。
質の良いソファーに、質の良いコーヒー、美味しいフレンチトースト、カッティングで決まるサンドウィッチ。
加え、質の良いカシミアをインプット頂くのも、永い人生にとって決して無駄ではないはず。
 
ちなみに、10名中、1名は「わたしはカーディガンを着ないので」
 
 
 
 
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60s British cashmere knit cardigan
 
 
カーディガンを着ない、というルールを敷かれている方に強引に推奨は致しません。御素材どうこう、繊維がこう、という以前の内容でしょう。それはその特別ルールを遵守されるのが宜しいと、わたくしもやはりそう思います。
 
とはいえ、バランタイン社が提案するカシミアの其れと、極めて近しいクオリティランクを有する本作は、通常の収穫段階から柔毛の内容まで綴りたくなる純粋にも素晴らしい内容でございました。ブラッシングを丁寧にかけ、たまに暖かな自然光に晒しながら、大切にお召し頂きたい一品でございます。
そうか、これが上級のカシミアか、と、肌にインプット頂きましたら人生経験として何より。「カーディガンを着ない」とルールを遵守されている、その1名であったとしましても。
 
 
 

 

 

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