長たる歴史や遍歴,軌跡を永遠とご紹介するつもりは御座いませんが、プレタポルテという概念が拡散したその根源に値するParisにおいて、幅も広くその才気を発揮してきたジャンポールゴルチエというひとりの男の功績は、キーボートにたった16文字の英字を打ち込むだけで彼の人生が出現する今の世の中。
少なからず、規則的に書き並べられた在籍環境や携わってきた人、それをひとつ境遇と呼ぶのなら “ どうでもいい ” わけなど決してなく、ましてや84年からオートクチュールコレクションが開始されるまでのメンズコレクション、その後のエルメス就任、どの年数を,どのシーズンを,どの作品を断片的に視ましても、常に、彼の才能がオーバーラップしている様が明確にも浮かび上がる具合。あらゆる尺度を用意して立ち迎うその瞬間、ファッションという世界に僭越ながら携わらせて頂いている身において、これほど幸せなことはないと想う次第です。本当によかった。
どの年数を,どのシーズンを,どの作品を断片的に視ましても、兎にも角にも、濃い。頭がおかしいです、本当に。情報がなにもない真空の状態で眺めるのが本来は何よりと思いますが、たとえば時系列を排除したうえで作品と向き合い、純粋性のみで勝負(賢察)しましても、怖ろしいほどにディープで、アナトミカル。無国籍で無人種。それは彼が専門的にファッションを学んでいないからなのか、常軌を逸していると初見の意が浮かびましても、シンボリズムやモニュメント性が少しも感じられないのは、少なからず、“ 人が着る ” ということが出発点であり終着点であること。端的に申し上げても、本当によくできた洋服です。さらに謂えば、あらゆる資料を捲っても元の着想点がまるで思い浮かばない。そもそもとして、今日着るか、明日も着るか、そうだ来週も着ようと素直なベクトルこそ全てなので、そこを追求する意味はまるでないのですが。わたくしもまた病気でしょう。悪い意味でも。
失礼を百も承知で申し上げましても、よくエルメスをやれたな、と。 “ 一寸の狂いもない変則性 ” に沿った素晴らしいデザイン群と、対極に位置するキングオブメゾンの揺るぎのないブランディング。かたや、彼が就任する2004年までレディースのクリエイションを一任されていた人物の師であった事実から、何かと筋が通る遍歴は、よくエルメスをやれたな、という一意見など素人の戯言と一蹴される素晴らしいクリエイションが、2004年から2011年の約7年もの間、披露され続けたこともまた事実。
特殊な好奇心を抱いた人々がひっそりと愉しむ種類のものでは決してなく、彼の長たる歴史や遍歴,軌跡と積み重ねた功績、偶発的に叶えられた境遇と、意図して叶えられた境遇。そんな彼を崇めた偉大なデザイナーと、それらすべてを含んだ上で、精査頂きたい内容であるのと同時に、キーボートにたった16文字の英字を打ち込むだけで彼の人生が出現する今の世の中、“ 一寸の狂いもない変則性 ” に沿った渾身の1着を目の前にしてしまえば、あらゆる文字列やロジックなど机上の空論。たとえ1000pに渡る文献があったとて敵うものではないと、お含み置きの程を頂けましたら、何より。
彼が祖母から洋裁を学んでから、P.Cardin氏の目に留まり、自身の冠のもとで精査を続け、エルメスのフィルターで自己表現を続けながら威風堂々と君臨し続けた才質と痕跡、彼のクリエイションが最も如実に表現された手仕事を知る、ということは、ファッションを愛してやまない我々にとっては確実にアドバンテージ(誰に/何に対してかは置いておいて)。特に、1994年に発表されたこの1着は、クレイジーに編み上げられた設計美、羊毛の上質さ、いたずらのように縫い付けられた無数の釦、両袖裏側に潜む特注の闘牛。 “ enfant terrible(恐るべき子供)” と評価された内容を濃厚に感じ取ることができましょう。ゲーテの「世界の万物はメタファー理論」に、唯一該当しない独立性と、他に表現の仕様がないこのニットジャンパーは、隈なく検証すればする程に取り込まれて往く危険信号。
今後しばらくは、出逢ってしまった強烈な印象と、完璧に包囲された感覚は消えることがなさそうです。
1994s Jean Paul Gaultier oversized knit pullover jumper with buttons
ゴルチエ氏を師として崇め、敬い、尊敬し、時にエルメスの冠を引き継いだとあるデザイナーのメンズファーストシーズン。紙一重に揺れるシンボリズムとアノニマスな匂い。
共に12/2より。
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ダブルブレストという区分をより自由な尺度で認めようとする際、最も、その振り幅が広いとストレートに感じる内容は、謂わずもがな、コートでしょう。袖を通した後、どう着こなすもんかと視えないコントローラーを握ったときは、○○×△と秘伝のコマンドを入力をせずとも、その衣類にいとも簡単に認められる具体性として、良質な生地の分量、つまりは、オーバーフィッティング(このバランスが常に絶妙だと感じるのは80年代ISSEY MIYAKEの作品)
定石なるロジックは不必要。だからこそ叶う変則的かつ超然とした出立ち、決して飛翔ではない包み込まれるムードは、“ ファッショナブル ” という視点でも、“ クラシカルに基づく男性特有ルール ” という視点でも成立する、
いわゆる “ ずるいやつ ” 。
あらゆる時代の服を着て、あらゆる国の仕立てを視て、あらゆるデザイナーの思惑を吸収してきた強者も、その重ねられた絶対感覚の末、仮に、飽和点に達した場合に往く付く先として「目の前のその服はあたたかいのか否か」。
あらゆる時代も、国の仕立ても、デザイナーの思惑も気にしない自称ゲーマーでさえも、一歩外界へ出るとき選ぶ1着はおそらく「あたたかい1着」でしょうから、立ち戻るはそういうことなのでしょう。オシャレは我慢、という文句こそ遠い国まで飛翔してしまえとわたくしは思いますが、風邪を引いたら元も子もありません。どうぞ身体は大切に。
所謂90年代らしい “ おおきさ ” ではないモダンに振れたその “ おおきさ ” は、謂うなれば絶妙であり、謂うなれば2000年初期のジョージクルーニーでありますが、いずれにせよ “ ファッショナブル ” という視点でも、“ クラシカルに基づく男性特有ルール ” という視点でも成立する、いわゆる、ずるいやつ、でして、44のわたくしでも、48(又は50)のディレクター福留でも成立する実際的なフォルムは、その時代最高峰の仕立てだからか、その国トップレヴェルの生地なのか、そのデザイナーが巧妙に仕掛けた思惑によるものかは知る由も御座いませんが、ダブルブレストという区分をより自由な尺度で認めようとする際、最も、その振り幅が広いとストレートに感じる内容こそ、謂わずもがな、コートで御座いまして、詰まるところ、今回ご紹介にあたる2着で御座います。
New arrival 60s British only cashmere double-breasted chesterfield coat
New arrival Late90s Yves Saint Laurent cashmere & wool double-breasted chesterfield coat
重ねられた絶対感覚の末が、実際に、飽和点に達した達人にも認めて頂けるであろうこの2着の “ あたたかさ ” は、1年に数回しか外出しない自称ゲーマーにもきっと。
ジャンクションを切り替えて、どうぞ心が往くままに。
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規則的に位置付けられている縞模様は、5色の羊毛で構成された単位模様が計画的に並べられたテキスタイル。ベースカラーは現実性を帯びたオックスフォードグレイ。そこに映える無数に伸びた黄褐色のラインは、人類が最も古くから用いている天然顔料の1種であるシェンナ色を想起させます。さらに注意深くみてみるとボルドー色も見え隠れする抜群な均衡は、謙虚で大胆、左岸的な主張でしょう。
ムッシュのDNAを受け継いだ美しき好手。
休むついでに長考しましても、明快に感じ取れる余裕を保ったダンディズムの仕組みは実のところ単純明快で、答え合わせは6つ釦のダブルブレスト、そのうえ、掛け釦はひとつ。この場合、釦を3カ所しっかり留める仕様では畏まってしまう場面も、6釦で1掛けの仕様はアウトサイダー。自由な提案とスタイルこそ叶う懐の深さを、具体的に示すポイントは先ずはここでしょう。セクションによっては不向きな仕立てで御座いますので、お仕事使いにご検討の方は別の1着をご紹介させて下さい。
左岸的な主張をクラシカルに表現したパリジャンの標本のようなダンディズムは、袖を通した段階で気持ちがよい音とともに身体が吸い込まれ、仮にもそこでロマンティシズムの本質を問いたら、一寸の狂いも躊躇いも異状もなく、従順なまでにその回答をレスポンスしてくれましょう。
それは、青年でも、紳士でも、勉強ではなく背伸びを本業とするティーンエイジャーでさえも。
男性でありさえすれば。
80s Yves Saint Laurent double-breasted tailored wool jacket
昨日、福留も申しておりましたが、ダブルブレストというステージでは、自由な解釈/再解釈のみで構成頂きたいものと、我々も再認識のうえ、再提案したいと、今回2017A/Wの中心的なエディットのひとつに挙げさせて頂きました。
たとえシングルのテーラードのうえに重ねようとも、ミリタリーピースにチューニングしようとも、我々はきっと首を縦に振るでしょう。
ましてや、女性とデートの際でも、表参道の中心でファッショナブルに活躍させるでも、Xmasに両手が空きそうな男達による作戦会議でも。
今からでも遅くはないと、先ずはダブルブレストを。
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