いついつの年代、どこどこのメーカー、だれだれの作品、それらの情報というのは「過去の真実」を紐解くにあたり(少なからず)マストファクターであると同時に、ときに個体そのものの魅力を覆い隠してしまう因子でもあると、常日頃と、注意深く、物事をみるように致しております。とはいうものの、覆い隠すという表現がコレクトならば、本質的魅力が消滅するわけではなく、むしろ造形の美しさや本来的色香を増幅させる栄養剤となり得る情報かもしれませんので因子などと描写するのは語弊かもしれませんし、“だれだれ”まで特性できた個体であれば、“だれだれ様”にも失礼なわけであります。兎に角ここで申し上げたいのは、本質的魅力が仮にも覆い隠されてしまう “前に” 物体としての実相と対面頂きたいのです。
こと、「ジュエリー」に関しては。
というので、哀訴嘆願と叶うに至った、“ 匿名造形(アノニマス・ジュエリー)” という世界は、まさにそう、我々のエゴの集体的編集であります。なにかの習慣、なにかの技術、なにかの想いに包まれた造形というのは、誰の評価も、どこの栄誉も、服飾史的記述も必要とせず、手のひらに乗せた肉感と手応えこそ、すべてであります。
一方で、「過去の真実」を紐解くにあたり、なかには匿名性として包まれた正体に近づく情報を追跡/ほんの一部分のみの片鱗を獲得した個体も御座いました。そうはいっても、匿名性に内包された痕跡や光に過ぎない情報でありますし、ハウスを特定したとてミステリアスカーテンに包まれた個体も当然ながら。あらゆる角度で、尺度で、第七感で、長期的関係を築くに値する個体であると御選定を頂けましたら、それが仮にもフィジカルな訴求力と圧倒性のみを有する砂漠のなかのダイヤモンドであったとしましても、あくまで匿名点。群衆に紛れるように、Keep a low profileの心持ちがコレクト。紳士の心得として。控えめに、目立たせず、さぞ、当然のように。

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かねてより SURR では背景や組成などが特定できるジュエリーや刻印という名の看板を背負っているジュエリーなどと対極に位置する、製作者や時にその意図すらが不明な匿名造形品を “ アノニマス・ジュエリー ” として不定期で御提案してまいりました。装飾品や造形品に限らず、前者にはそれぞれの専門家が大なり小なり存在するため、その御縁の恩恵によりある程度安定したセレクションが叶うのですが、後者のアノニマス・ジュエリーは基本的に専門家と想える人々がおらず品々は世界中に分散しているため、それらとの出逢いは真の意味で砂漠から一粒のダイヤモンドを見つけ出すようなものだと、私は感じております。
この度お披露目が叶いました新作, 匿名造形の数々。このような編集を行わせて頂く事は実を申しますと、 SURR にとってささやかながら明確に “ 挑戦 ” です。製作者や時にはその意図すらが不明であり、いつの時代に生まれたものかという判断も品によっては素材感という不明瞭な要素を基準にしなくてはならず、我々の基準においては極めて強い求心力を有すると共に危うさも伴う諸刃の剣。そしてなによりも砂漠のダイヤモンドゆえに編集に踏み切れるほどの構築が叶わず、結局のところ着想から実現まで2年という歳月が必要でした。

Newarrival, 匿名造形
なお、感じて考える時間はたっぷりとございましたので、最終的に “ 匿名 ” という概念を拡大するに至りました。製作者や背景不明という純然たる匿名性のみならず、匿名力のある装飾性や、伝統的かつ不変的であるがゆえ逆に匿名性を有することとなったモチーフ, スタイルなど。あくまで我々の基準ではありますが、この度の “ 匿名造形 ” という表現にて編集させて頂いております。もし御興味頂けましたら引き続き純真無垢な眼にて捉えて頂き、僅かでもお愉しみ頂けましたら幸いです。
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森林,野山,平原,地中,木々、あらゆる自然環境に衣服を投下。生物との共存、天水や自然光の恩恵。あるいは自然の猛威という厳しい環境直下での洗礼を受け、その1年後(長くて3年)、収穫をする。収穫した衣服というのは生地の触れ心地や、包まれた陽光の香りにとどまらず、圧倒的ともいえる “精彩” を獲得しており、それはまるで絵様のような美しさである。視覚的魅力として、自然界における四季や風、あるいは成長というものが衣服その1着に保存される。
また洗礼により瑕疵/変調が生じた衣服は、ひとりの女性がすべて手縫いで修繕/補修をする。
このようにして、1着に生命が与えられる。
上述の一連が、KARIM HADJABにおけるメインクリエイション「4Saison」であります。仮にも同一の個体,同様の自然環境,同じタイミングでの投下,同等の条件をパスしたとしましても、不規則的な自然環境下においては等しい “成長” というのは決して叶わず、詰まるところ、究極的な「個」が獲得されるわけであります。因に、同等の条件にて(個体は違えど)行った実例が2着のみ御座いまして、袖を結び合わせ自然界へ投下。片時も離れず、生物の享受も、容赦ない天災も同じく。しかしながら,当然ながら、収穫後は個体として飽きれるくらい鮮烈な差異、驚くほど “不等” で御座いました。同環境下で成長を遂げたという意味性もあってか、氏はその2着を「双子」と称しております。内省的な彼らは店内の何処かにひっそりと息を潜めておりますので、この子か、と視界に捉えた際は、どうぞ対話をお愉しみ下さい。
コレクト/インコレクトの法令下とは全くの逆方向で成立する世界。正解/不正解がなく、制限がなく、自由があり、しかし孤高であります。ありえないほどの独立性。Argileにおいても完全的個体性というものは確立され、平たく申し上げましても同等同個が有り得ない。しかしながら “同じようなトーン” でありましたら “近しい彩色を具有した” 作品というのをご紹介させて頂くことは叶いますが、4Saisonを通過した個体というのは、内包された意味性それ以前に、視覚的魅力が全的に,新鮮に,不規則的に,宿命的に保存され、故に “同じようなトーン” という漠然性が存在し得えず、 “こう在るべきして在る” 運命的な美しさを強く感取致します。











わたくしのクローゼットに迎え入れたファーストピースも4Saisonの1着で御座いました。ほとんど、といって差し支えないほど日々お世話になってまして、4saisonに加え「2face」という2着の50sウェイタージャケットを裏表で縫い合わせたリバーシブルクリエイションですので、考慮を払いましても凄く分厚い。コットンなのに分厚い。夏に着用するととても暑い。しかしながらコットンという御素材に絶大な信頼と敬意を憶えるわたくしは真夏でも何を考えているかわからない目つきで着用するわけです。夏場には10日に一度ぬるま湯で洗濯。タンブラー(儀式のようなもの)。裏表あるのでポケットは8つ。ドロドロのキャラメルとムービーチケット、2年前のティッシュ。そしてこの機会にご縁があり、2人目を我が家へ迎え入れたわけでありますが、こちらはシングルのカバーオール(論を待たずコットン)ですので、毎日しっかりとした目つきでお世話になっております。そのように習慣化致しますと、KARIM HADJABの服という感覚が消滅し、どこの自然環境に身を置いただの(この2着に関してはわたくしも知らない)その過程すらも意識から遠のき、習慣物としての決然とした “手応え” のみが残ります。それはときに脱いだときの皺として、襟の擦れとして、チェストポケットの溶けたキャラメルとしておおかた具像的になり、強力なリアリティを帯び、収拾がつかなくなるほど可愛くてたまらなくなるのです。女性は遠のきます。
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KARIM HADJAB , 4Saison , base : 40s Frenchwork natural cotton coverall
p.s. 新作である此方は、天然インディゴによる染めを実行した後、4Saisonを通過した極特異点。 “精彩” をダイレクトに感じて頂けるほど鮮やかなターコイズブルーへ成長した個体。宜しければ。
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