少しばかり余談を。
わたくしは音楽から遠いところを歩んで参りました。常日頃と聴かないのです。しかしながらファッションの畑では音楽と密接な側面も御座いますため、そしてそのような側面を愛する方達が大勢と居りますもので、幾分、マイノリティに位置するわたくしであると哀しき自負も御座いまして、とはいえわたくし自身、音楽を忌み嫌うというものでは決してなく、なければならない種類の必然事項でもなく、只只、聴かないのです。
そんなわたくしですが、時はたまに、本当に時はたまに、最寄りの蔦屋へ足を運び、アルバムを購入することが御座います。その足を向かわせる原動力は気まぐれとしか謂いようがないのでつまらない話なのですが、例によって音楽から遠いところを歩んできたわたくしがアルバムを購入するに至る理由すらも “ 気まぐれ ” というわけでは当然になく、容赦もなく素晴らしい “ 歌詞 ” こそ気まぐれを上回る明確な理由でして、綿密に構成された言葉のセレクションというのに心を惹かれるわけでして、普段このようにタイプする拙い言葉選びとも違い、あるいは純文学のように500pに渡って繰り広げる壮大な長編構成とも違い、僅か数分の中に想いやストーリーやドラマや人と柄がすっぽりと収まった編集に心を打たれるわけであります。そのようにして購入するわけですが、例によって音楽から遠いところを歩んできたわたくしですので自宅にCDデッキがなく、歌詞カードのみが古びていくのです。お恥ずかしい。
そして先日、購入した奇跡の一枚というのが、福留も申していたように、宇多田ヒカルの新譜で御座いました。音楽とは無縁の道なりでしたが、彼女の曲(歌詞)だけは義務教育中盤辺りより目を落とすようになりまして、情感が静かに生まれていく光景に心を何度も動かされ、その度に、14.5歳の小僧が悟り開いたように女性に近づき(結果は聞かずとも)音楽に慰められるわけでも元気を頂くわけでもなく、ひとり静かに潜考するもんですからこのように歪んだ人格を形成したわけであります。扨措き、この度の新譜も大変に素晴らしい綴りと思います。そして先刻、NHK某番組で作家又吉直樹との対談において彼女が語った今回新譜のタイトル名についての内容が心に残りまして、“落ち”のないこの余談を締めくくる意味でもご紹介したいと思います。一字一句差異はあると思いますがご容赦下さいませ。
Q「初恋」というタイトルについて
A【デビュー20年だし、面白いじゃんそうしよう、と思ったわけではない。
初恋とは、初めて人間として深く関係をもったときがそうであるように、わたしにとっては両親がそうであった。
必ずしも恋ではない。どんな形であれ、対象であれ、むしろ愛のほうでしょう。
それを紐解くため、20年間、テーマはずっと「初恋」かもしれません。】
とある仏アーティスト様が習慣的穿物として最も快適であると認めたコットン&リネンの簡潔的個体は、アーティスト様自身デイリーギアとして,会心の日常活動着として御愛用。
わたくし足を通して驚きました。ヒップ外郭と太腿付近、つまりは膝から上にかけての居心地というのが其れはもう見事なもので、座る,立つ,腰掛ける,歩く,止まる,走る,しゃがむ,四股を踏む、あらゆる運動を助長し、追随せず、習慣物として最も快適であると認めた仏アーティスト様の表現が、強烈な説得力とフィジカルな訴求力をもって、成る程、認識に至ったわけであります。巨大なウエストをドローコードで男性的に絞るフィッティング精査、骨格,体型問わず受け入れられる深い懐、その独特なフォルム、精妙なヒップバランスは、経験則上過去の作品どれにも当てはまらず、あるいはフレンチワークの世界でもミリタリーでも拡散期80年代メゾンの作品でも経験したことがない、あまりにも “心地よい歪み” 。
膝下より急激に絞られたレッグライン、濃厚かつ瞭然たるネイヴィ、驚異的な快適性と共存するこの素晴らしきモダニズム、50年代、ミッドセンチュリー。納豆をこよなく愛する仏アーティスト様は70s某スニーカーを丁寧に合わせておりましたが、このレッグラインを美しいとお認め頂けるならば、あるいは普段我々からあまり申し上げないので異例としてご提案させて頂けるならば、是非とも、お気に入りのレザーシューズを結び合せ頂きたく存じます。
余儀なく、素晴らしいトラウザーと,心より。
New arrival 50s French work cotton & linen comfortable trousers
SURR by LAILA 小林
03-5468-5966
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この度、勝手ながらご用意をさせて頂きました【Summer trousers】という編集点は、それぞれ異なる方向性に大きく舵が取られた先、完璧別様の成功が収められた個体と漸くをもって考察を終えました。異なる方向性というのは、目的性や作製者的意図による差異、加えて、そもそもステージが異なる上、そもそも作製年代も異なるもんですから、レッグラインのみで完璧別様の成功を語るには不足が過ぎるほど、実相個体そのものの「完璧別様の成功」なわけであります。そしてここでいう “それぞれ” とはおおかた “3種 ” のトラウザーが該当致しまして、希少性を推し量ることすら叶わない某メゾン/ランウェイピースは誠に、誠に、誠に、幸運な出逢いで御座いました。一方、とある仏アーティスト様が習慣的穿物として最も快適であると認めたコットン&リネンの簡潔的個体は、アーティスト様自身デイリーギアとして,会心の日常活動着として御愛用。あるいは米国某社がパリジャンのために提案した60年代,正統的気品、素晴らしき素晴らしきスポーツトラウザー。
いずれも皆様のレッグラインとお心にどっぷり栄養を注いで頂ける個体と、先ずはNewarrival , Summer trousers 、少しばかりでも御愉しみ頂けましたら幸いに想います。特に、とある仏アーティスト様が愛した個体というのは、この度、4本の出逢いが叶いまして、それぞれ同一製法ながら人体に沿わしますとシルエット,フォルム,空間コントロールが見事に異なる4本であるため、ご所望でありましたら、僭越ながら我々からお客様に最適な1本をご提案させて頂きます。
Summer trousers , 7/7(土)12:00〜 御披露目
皆様のご来店を心より、御待ち申し上げております。
SURR by LAILA 小林
03-5468-5966
[email protected]
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先日の小林店長の Diary を読み、自宅の縁側にて再び心から寂しい気分となりました。在りし日に友人の松澤 匠くん 【 後述1 】 が連れてきてくれた頃 ( 当時は LAILA VINTAGE ) から既に窓の外で生い茂っていたヴァージニアクリーパー。それから時を経て私が LAILA でお客様をお出迎えする立場になってから既に10年以上経ちますが、外を見れば常にそれが在りました。春が近づけば葉がつき始め, 気温の上昇と共に茂り, 夏の終わりから枯れ始め, 徐々に紅葉し行く末枯れ, そして再び緑が息吹く。移ろいゆく四季を明確に現わしてくれ、何より常に穏やかな気持ちにさせてくれた “ お向かいさん ” が無くなってしまうという事実は、宇多田ヒカルの新譜 【 後述2 】 との出逢いで幸せな気分であった私を一挙に悲しみの渕へと沈めてくれました。まずは LAILA VINTAGE の宮本店長が “ どうやら… ” と教えてくれ、その後に界隈の情報通のお方が教えてくれたことで疑惑は確信へ。お向かいさん、並びに向かってその隣がどうやら商業施設の類へと生まれ変わるそうです。
SURR はその立地ゆえいわゆる極めて入りづらい空間なのだと思います。しかしながら御入店頂くとお客様の中にはゆっくりお過ごしくださる方がいらっしゃるのですが、考えてみるとお向かいさんの景色, ヴァージニアクリーパーの色や空気がその大きな要因になっているのではないかと思います。そして何よりもお出迎えする我々にとってその景色は常に大きな心の支えでした。SURR においてまず大切にしていることはお客様方に可能な限り豊かなお心持ちでゆっくりとお過ごし頂く事でして、そのためにお出迎えする我々自身が豊かな心持ち, 立ち振る舞いを行うことを信条とさせて頂いているのですが、考えてみるとその信条を築くこととなった要因の一つはヴァージニアクリーパーの粛々とした生命力 だったのかもしれません。
私自身は基本的に楽天的であり悲しい気分も割合すぐ切り替えることが出来る, 意識的に切り替えるようにしているのですが、この度のさよならはあいにくながら不可でした。LAILA が設立して 16 年目。その期間だけでもこの界隈は様々な変化がございましたし、そもそも昨今は都心部各所で大きな変化が訪れておりますので、本件もその一つなのだと思いますが、まだ寂しい気持ちは消えそうにありません。しかしながら楽天的かつ前向きを個人信条としておりますので、限りあるお向かいさんの風景を楽しもうと思います。はてさて、極めて私的な綴りとなってしまいました。お目汚し失礼致しました。
【 後述1 】
『 ドメ、LAILA って店があるらしいぞ 』 そう言って私をヴィンテージの世界に誘ってくれた人物、松澤 匠くん。それまで古着という文化しか認識していなかった私は、ヴィンテージという文化に衝撃を受けそれを志し現在に至ったのに対して、彼は役者の世界を志し現在に至っております。悪い意味ではなく用事が出来ないと連絡を取らないのでそういえば全然会っていませんが、私は定期的に彼の姿をテレビなどで拝見しており おっ匠ちゃんじゃん などと独り言ち、彼が Aスタジオ に出た際、鶴瓶さんにどんな話をしようかとイメージトレーニングしているのです。
霧ヶ峰50周年ムービー「僕の人生に吹く風」【三菱電機公式】
なお、先々公開の映画 『 SUNNY 強い気持ち・強い愛 』 に御出演だそうです。皆様ご興味くださいませ。
【 後述2 】
私はタワーレコード渋谷店が大好きでして、定期的に素敵な出逢いを求めては訪れ、いわゆるジャケ買いをしております。その日 6/27 は敬愛する 現代音楽家 Nico Muhly の新譜がございましたので意気揚々とレジに向かいましたところ、カウンターの上に 宇多田ヒカル の新譜が鎮座しておりました。その時は時差ボケ【 後述3 】でややばかり朦朧としていたこともあり、気付かぬうちにジャケットを眺めていたようでして、おもむろにカウンター内の店員さんが 『 そちら、本日発売です 』 とおっしゃられたのですが、その後に続いた一言に私の心は射抜かれました。 『 宇多田ヒカルはデビューアルバムが 「 First Love 」だったのですが、20年目に発表したこちらが「 初恋 」 というタイトルなんです 』 短くなく長くない、単純かつ明快で、純然たる真実に基づくご説明。 “ これこそまさにお客様に御提案するという意味での接客だ ” と私は本当に感動致しまして、購入させて頂きました。
これまで彼女の曲をしっかり聴いたことが無かったのですが、素晴らしい才能をお持ちの方だということを今更ながら知ることが出来ました。沢山聴いております。個人的には 「 嫉妬されるべき人生 」 が好みです。曲自体もちろん魅力的ですが、 嫉妬されるべき人生 という言葉の響きに大変な渋みと凄みを感じずにはいられません。
【 後述3 】
先日、新たな出逢いを求める旅より帰国致しました。今回もヨーロッパにおける観光的な意味合いでの御報告はございませんが、SURR においての御提案という意味合いでの御報告は喜ばしいことに沢山沢山ございます。トップメゾンにおける当時の挑戦的創造や、お披露目のため創られた純粋な1点もの【 後述4 】、意欲的なメゾンの姿勢から生まれる秀逸作、一つの区分においてそこに属していながらもくくり切ることのできない歴史が生んだ不確定的要素【 同後述4 】、個を明確に感じるアンティークピース / ヴィンテージピース、製作者不明な圧倒的才覚の品々など。 “ 誰にも気付かれることはないんだ。自分のものにしてしまえ ” という孤独な悪魔のささやきに幾度も打ち勝ち、無事日本に連れて帰ってまいりました。従来通り、 SURR の空間にてお客様に御披露目するに相応しい最終段階の様々を経まして順次御提案させて頂きますので、御期待頂けましたら幸いです。
【 後述4 】
つきましては近々、先日の旅で出逢えた第一陣のお披露目が叶いそうです。今回は自然な出で立ち,居様とご認識される品々かもしれませんが、その実それぞれにモードの本国, フランスならではの要素と魅力とそれぞれ異なる骨太な求心力を備え、現代に生きる皆様のレッグラインを秀逸に彩りお愉しみ頂けると信じて止まない布陣になることと思います。追ってご報告させて頂きますので宜しくお願い申し上げます。
SURR by LAILA 福留
03-5468-5966
[email protected]
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