ダークネイビー、ブラウン、そしてモスグリーン。弊店にとって三着目(ドッキングのバランスやワンポイントの刺繍などが微細に変化しているので全く同じプロダクトではないんですが)となるHermes hommeによるレザードッキングという贅の限りをつくした極めて“らしい“カーディガン。ヌバックレザーとウールとカシミアとシルクという心身が癒される(一説によると温泉旅行三回分と言われています)素材を四種配合したマリアージュはカーディガンというホッコシなプロダクトに類稀なるキレと深みを与え、高めのVゾーンとボクシーなシルエット,そして何よりレザーという素材感のコントラストによってノーカラージャケットのムードで着こなせる個性がまた最高に“らしい“。
本体と同化したクワイエットラグジュアリー(まぁこの時代はこのバランス感が普通だったのでわざわざ呼称することではないのでしょうが)なエンブレムの刺繍はさることながら、私はVintage Hermes homme特有の手彫り水牛の角ボタンに特にグッときてしまいます。注視しないと解らないような要素性ですが特出して輝いて見えてしまうんですよ。
New,early90ss Hermes homme nubuck leather docking wool cashmere&silk cardigan
ごくたまに第三者が“それなんか良いね、どこの?あーエルメスか、なるほどねー“ってなる感じとでも申しましょうか、あくまでベーシックでアノニマスでありながら伝わる人に適切に伝わる求心力がHermes hommeにおける本質的な魅力の一つだと思っているのですが、時にこちらのように圧倒的にエレガントなプロダクトも存在してそれがまた楽しいったらない。エレガントではありますが野暮でも無粋でもありませんからね、もちろん。
SURR 福留
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今週の新作は今期初の御提案となるレザーウェア。不変的かつメンズらしさ溢れるプロダクトながら着る人は着る・着ない人は着ないの垣根が今だに存在することを認識していたものの前AWが終わってもなんだかんだ店頭にてオリジンヴィンテージレザー及びデザイナーズヴィンテージレザー及びメーカーズヴィンテージレザーの世界における美しくも残酷な現実に関して会話する機会が多かったもので、弊店は今年も特に熱量MAX特にLOVE MAXの姿勢で御推奨致しますこと、御容赦をば。
このポケット配置のレザーウェアはことイタリアにおいて石を蹴れば必ず当たるほど と言ったら言い過ぎかもしれませんが、そう言いたくなってしまうほどに出逢えまくる存在でございまして、プロダクトデザインとしての発祥はアメリカながら例によってなんだかんだ全世界のファッションカルチャーで御手本にされ続けてきた影響を与え続けてきた強国宜しく、このプロダクトデザインもまたイタリア文化おいてもにしっかりと根を下ろしたことはきっと御存知の方も多いことと存じます。
アメリカ空軍夏期用飛行士衣類を原点としたボタンの前立て,上からと横からの二重構造となったポケットの意匠,象徴的なリブ、こぇれが本当に本当にまぁ着やすいんだ。着やすい着やすいうるせえよって感じですが、着やすいことは良いことなので仕方がありません。もちろん教科書として影響を与え世界各国の各社が受け継ぎ続けることで結果論的パーマネントコレクションとなるようなマスターピースプロダクトデザイン(幾つかありますねぇ)ですから、スタイルとして格好良く完成されている点は言うまでもありませんが、格好良さ120点であると同時に気やすさと利便性も120点なんだから、もう猛烈です。
しかしながら石を蹴れば必ず当たるにも関わらず買い付けの旅順において都度必ず連れて帰ってきたかと言うと、否。理由は私の中で明白でして、ずばりレザーの質です。30着に触れても50着に触れても100着に触れてもこれぞの出逢いは無く、となるとデザイナーズやメイカーだと安心して身を委ねられるのですがそれらの出逢いはかなり稀有。先日幸運にもAquascutumとイタリーアノニマスにて一着ずつではありますが出逢うことができました。このプロダクトとして“THE感“が特にビンビンな成熟感満載のブラウンヌバックレザー、セクシー。
New,80s Italy Anonymouse & 90s Aquascutum A-2 style nubuck leather jacket
これは思い切り余談なのですが、いつからか国内ではイタリアのこれらプロダクトをとあるメーカー名を冠して⚪︎⚪︎ジャケットと呼ぶ機会が増えたような気がしますが、例えるならバルカラーコートを全てバーバリーコートと呼ぶようなものだと思うので心がしっくりきませんので、弊店では一貫してプロダクトデザインの原点であるA-2 styleと冠しています。なんか昔からやたらと気にしてしまうし気になってしまうんですよね、冠し方。以上、思い切り余談でした。
SURR 福留
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ファッションデザイナーという役職に初めてクリエイティヴディレクターという付加価値を与え時に過激に時に特出して上品なクリエイションを発表することで存在価値を高めるだけではなく当初2億ドルであった年間総売上を32億ドルまで押し上げたものの親会社と意向が合わず2004AWをもってGucciを去ったフォードさん。そのショーでバラの花びらが降り注ぐ中ウイスキーのロックグラスとタバコを片手に彼が現れた時に流れていたBGMはUltra NatéのFree、“自分の人生を生きる,やりたいことをやる,貴方は自由“。濃密なメッセージでした。
服飾史をヴィンテージカルチャーにしっかりと向き合い圧倒的な感性で自己再解釈したフォードさんはGucciの歴史において様々な名作を生み出し御存知の通り現代のクリエイションにおいても今だに重要な存在価値を有し続けていますが、ことエレガントなメンズドレススタイルはラストクリエイションの軸となっていることからも彼にとって重要な世界観であることが伺えます。Gucciという歴史ある大看板への敬意,服飾史への敬意,そして自身のクリエイティヴィティ 。この三要素が信じられないほど美しく調和したこちらのチェスターフィールドコートもまた“さよならGucci“というメッセージが込められたラストクリエイションならではの一着と言えます。
見事なまでに豪奢な襟,造形的なボタン配置,特徴的なフラップと各所にフォードさんらしい味付けが際立ちますが、それはあくまで紳士服としての基本に則ったもの。テーラードジャケットの原型となった古来のチェスターフィールドバランスであるコンパクトな着丈を取り入れた点には特に歴史へのリスペクトを感じます。フランネルのブラックカラーというこれまた王道であり古典的でもある要素性ながら上質な素材感と各所に光る手仕事の存在感,隠されたGucci刻印の水牛の角ボタンまでもが相まって発する男性的エレガンスを煮詰めたオーラは信じられないほど濃厚。これぞ“トム・フォードが手がけたGucci“と鼻血および拍手が止まりません。
New,2004AW Gucci by Tom Ford pure wool chesterfield coat
最後のクリエイションはフォードさんの中に渦巻く性的要因を言動力とした快楽主義的思想の魅力をデザイナーとしてファッションの形で表現したからこそ高く評価されました。ゆえにこのコートは見た目に分かりやすいデザイン要素やアレンジ要素はなく服飾史に懇切丁寧に向き合った古典的なプロダクトでありながらも分かりやすいデザインやアレンジ以上の存在感を発揮することができるのでしょう。
フォードさんの“さよならGucci“の愛情が込められた一着、ちょうど20年経った今ご覧になってどう感じられますでしょうか?
SURR 福留
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