tweed / Diary473
5.12.2017

 
 
ツイードという毛織物を探究しますと、スコットランド産の羊毛という条件が必要な歴史もございましたが、現代では限定性は皆無。広域な基準でツイードという織物が存在しましょう。小さな区域にて発祥したその毛織物の魅力が、世界へ向けてディフュージョンしたからこそ広域な基準が存在してるのだと思いますが、いずれにしましてもスコットランド産の羊毛が使われている/いないは差し詰め重要ではなく、羊毛本来の力強さをそのまま体現できる平織りまたは綾織りされた内容こそ、ツイードであることの証明であり、詳述する必要のない自明の魅力でしょう。
 
縦にも横にも強く、頑丈に織られた天然繊維、たとえばこれがテーラードジャケットという衣類に用いられた場合、男性的魅力を最大値まで高めることはご想像の通り。とはいうものの、折角の肉厚でたくましいツイードを、汚れやほつれに対しセンシティブになり、天候を恐れ、テーラード特有のルールを適用させることは、ツイード本来の魅力を消滅させることになるという、古くから存在する定説。数年、雨にさらし放置する自然環境がツイードの本質を最高レヴェルまで引き出すとはよく云われること。実際に、そのようなロジックが存在するとしましても、縦方向、横方向へ完璧に織られたその生地が、どのように昇華されるものか、将又、マイナス的要素を孕むのか、定説通り素晴らしいポテンシャルを獲得するかは、いってしまえば各々の判断基準。
少なからず、1年間自然界へ野ざらしにし、究極的な環境下で実際に耐え抜かれた、とある2着を目の前にしたわたくしは、たった5分程のフィッティングにも関わらず、確実に既製品にはない鍛え抜かれたテクスチャーと、人の動きにどこまでも追随する織りの柔軟さが、脳裏と身体とで完璧に記憶してしまい、それからというもの、1910年代〜1980年代、近年まで広域に探すもまぁ御座いませんで、仮にも上記ロジックが存在したとて、実践的にトライした倒錯者などいなかったのではと思わざるを得ない始末。そりゃそうだ。
 
詰まるところ、ツイード本来のポテンシャルが最大値まで昇華されるには、クリーニングを習慣化するより、元は羊毛、野に放ち、雨に打たせよと。
そして、論より証拠と謂わんばかりに実行された、その2着。
 
 
 
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約1年間、数秒先も予測できない自然領域に放ち、人間を侵入させないルールを徹底。その後収穫し、超然的な自然環境下で蓄積された瑕疵や変調をたったひとりの女性が6ヶ月という時間をかけて丁寧に縫合し、修繕。自然界直下では、当然あらゆる天候を経験。たとえば不規則に降る雨に対し、水の多くあたる部分、又はあたらない箇所。故に獲得される特質的な縮率とフィッティング。それは某メゾンのテーラードのように神経質なフィッティング概念がまったく通用しないカテゴリーであり、完璧に独立する無類の1着。だからこそ、どこまでも自由なその洋服は、繊細な舌を武器とするフレンチシェフでも、指と耳の絶対感覚をもつヴァイオリニストでも、人生を編みに捧げたニッターでも、フィッティングではなく個性とさえ合致すれば文句の付けようもなく成立する代替性のない内容。唯一無二に昇華されたステータスと、たくましくも柔軟なツイード地だからこそ男性的魅力を引き上げるものと、久々に心を揺さぶられたテーラードジャケットで御座いました。
 
 
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手際よく袋縫いされたその2着、元は1940年代に仕立てられたフレンチテーラードですが、それらに完璧無垢の “ 個性 ” を与えるべく母国Parisで探究/精査/実行をするKarim Hadjab氏クリエイションは、世界的にみてもポツンと孤立したように特異的であり、革新的であり、衣類の根幹を見据えた単純明瞭な哲学。彼がクリエイションを試みた衣類にはネームプレートや表示タグはなく、純粋な1着として向き合って頂きたい彼の思惑、そして焦点を当てられたこの2着は、ツイードのポテンシャルが最大値まで昇華されたとある40年代のフレンチテーラードとお認めを頂けましたら、我々としましても何より。
 
 
 
 
 
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Karim Hadjab , 4Saison & 6Months & Hand finish , base : 40s French tweed tailored jacket
 
 
 
 
長い年月をかけて訓練されたようた柔靭で力強いツイードは、毎日にでもお召し頂き、本来の魅力をご体感頂くのと同時に、どこかに生じた変調や瑕疵はその都度手直しを続け、永いこと愛して頂きたいお洋服で御座います。出逢いよりややばかり時間が経過しましたが、こうしてご紹介が叶いましたことを素直に嬉しく思います。言葉そのまま、同じフィッティング、カラーリング、ポテンシャルは二度とエントリーが叶わない区分となりますので、この機会にどうぞ、ご潜考のほどを。

 

 

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