デザイナーの味付け / Diary968
5.5.2021

今回のDiaryは表題に関して。

 

 




 

 

例えばテーラードジャケットという分野に時代ごと即したスタンダードが在るとして、そのスタンダードに沿って構築するのがテーラー専門の職人やメーカーだとしたら、それに独自の味付けを加えるのがデザイナーの仕事 ( 役割? ) ではないでしょうか。メーカー素味とデザイナー味付けに大きな差異があり、そしてデザイナーによって醤油を用いる人がいたりオリーヴオイルを用いる人がいたり香辛料を用いる人いたり、薄味がいたり濃い味がいたりと人それぞれで異なる味付けが楽しく興味深くかつ全てが正解である無垢な世界で、メーカーもデザイナーも等しく同等に稀有で良し悪しなんて定められません。これもまた こうでなければいけない が存在しない自由な世界です。

 

私は年次によってメーカーの素味が軸になることもあればデザイナー味付けが好みの軸になることもあって引き続き無節操を楽しんでおりますが、今年の春になってからはめっきりデザイナー味付けを好んでおります。

 

 

 

 

 

そうなるとこちらがまた強刺激。1988年に製作された Hermes homme の一着で、デザイナー,ヴェロニク・ニシャニアン女史の在籍初年度の一着なのですが、現在でも続く彼女のクリエイションにおけるテーラードジャケットの傾向と大きな違いがありまして、それは男性性の主張性なのですが、特に特に強く封入されています。ちょっと表現が難しいのですが、男っぽいと言えばそうで男臭いと言えばそうなのですが充分ではなく、映画のゴッドファーザーっぽいとも言えばそうなのですが、それでもまだ不充分。クラシックでまとめるのもアンフェアで、うーん、、、
“ この時代における Hermes homme ( =ニシャニアン女史 ) は、男性はこう在ってほしいと思っていたバランス ” と申しますか。。。
 
テーラードジャケットにおけるデザイナー味付けは、特にその好みであったりフェチズムであったりロマンティシズムであったりを如実に現すように思います。ユースカルチャーが好きだから未完成の体型を好む人、純粋にモデル系のスーパースキニーボディが好きな人、筋肉のゴージャスなオーラを好む人、建築物が好きなので独特過ぎるバランスな人、誰にも読み解かせないミステリアスな人、良い意味でその点に執着しないので時代に即した素味を採用する人、そもそも時代に即した素味が好きな人。どの味付けも楽しいです。そのバランスはそれこそデザインなので、ボディバランスによってはビスポークで身体にほぼ100%沿ったジャケットよりも身体に全然沿っていないデザイナー味付けの方が格好良く成るなんてことも全然あり得るかと。
 
そしてこちらのヴェロニク・ニシャニアン最初期数年間特有の男性性の強主張。ショルダーはより強く広めに、着丈も長めな強い印象で、結果的に可動域は広めで、よりダンディでマッチョでパワフルでセクシーな男性像に成るようにと演出補正が施されているのですが、柔らかい素材表情や繊細な曲線構築、イタリー・サルトリアの手縫いを駆使したテクニックなどによって、しっかりフレンチモードによる・メゾンによる・そして時に優しく時に鋭く社会を捉えるファッションデザイナーによる一着に仕上がっています。
 
ニシャニアン女史の根幹には、決して派手ではないものの気の利いた着こなしやアレンジやさりげないアイテム選びで装いを楽しんでいた父の存在があるそうです。この男らしくどっしりと頼りがいがありながらも優しく柔和な背中には父の姿が重なるのかしら?なんて思ったりもします。あと、何かに似ているなぁと思ったら彼女が修行したセルッティの80-90年代クリエイションのムードでした。
 
その主張が強い味付け+ダブルブレスト+ブレザーですからね。まぁ面白いですし、身体と心にフィットしたら最強のスリーシーズン・マスターピースです。

 

 

 

 

 

1988s Hermes homme double breasted blazer.

ちなみに私が最近デザイナー味付け ( 濃いめ ) が楽しい理由はお客様とお話していて気付きました。コーディネートの自由度が高いからです。

 

 

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