この個体を一体どのように御伝えすれば、一体どのような方式をもってご紹介すれば、いかなる時折が望ましいか、わたくしのこの抑えも利かぬ熱量を、一体、どのようにして、どのようなふうに、如何様な程に、御伝えすれば宜しいか。そもそもとして、弊店のフィルターを通した表現方式で正しいか、表現媒体として「Diary」というシステムは相応か、わたくしの私的文章を公式的にタイプし続ける事は然りか否か。これらを総称して「緊張」と謂いますし、コントロールの効かぬ不可抗力「重圧」とも呼びましょうが、生憎ながらわたくし、いずれも当て嵌まらず、好奇心というエンジンがかけられたし一月前から極端に暴走している私的欲求で御座いまして、その源にただふたつ謂える事としましたら、“ この服、この空間に在って良いのだろうか、 ” という素朴な男の素朴な疑問と、“ この服、この空間に在って嬉しい、 ” という思慮深い男の単純な感想で御座いました。
その源に据えられた簡素で単純で明快なわたくしの感想を具体化すべく横付け可能な理由というのは、「文化的共有資産」という意味性がまさに適合であるように思いまして、服飾史的見地からも文化保全的見地からも資料的見地からも護られなければならない種類の稀少かつ貴重な衣服であることは自明の通り、「ナントカ財団」だとか「ナントカ歴史資料館」だとか「ナントカ博物館」だとかに貯蔵され管理され魅せられる種類の衣服であることも自明のように勝手ながら捉えておりましたこの年代の、この衣服。
そのようにして避けようもない実相が御座いますが、しかしながら弊社秘密の部屋行きの切符も発行されずして弊店空間に佇むこの衣服というので、それほどの希少性やら圧倒性やら文化的共有資産やらの避けようもない事実は当然消しようもなく、今から約140年前に仕立てられた事実も、仏銀行家が着用していた事実も、「敬意」という札を貼り、引き出しにそっとしまったとして、この見事なコンディションを保つため保管管理に心血を注いできた,この1着を今目の前に存在させることを許した,この1着に関わってきたすべての人々に深く御礼を述べた上で、わたくしのこの抑えも利かぬ熱量と一月前から極端に暴走している私的欲求をご説明とさせて頂きたい所存でありまして、大体をもって、1900年以前の衣服というのは「work」であれ「military」であれ「bespoke」であれ、コスチュームとしての視認性が強く、キャラクターとしての視認性も否定できず、観察物としてのスペクタクルな具像をもった実態、が、その殆どであろうと思いまして、つまりは現実性がない、と不時着致しますが、2018年今現在とこれからを生きようとする我々が生活的に「着用をする」ベクトルを向けたとき、たとえそれがファッションで在れ勿れ、不適応な衣服が多く、文化的共通資産であろうが服飾史的にどれほどの希少性を持ち合わせようが、ひとりの男性と向き合わせた時には其れは跡形もなく観覧用に成り得るのだろうと、興奮と落胆を憶えるのはやはり“Special antique”という区分。
つまりは、そのような事前認識や固定見解や客観的考察というのをすべて完全に覆した此の“Special antique”との御縁は、その実態を自身の目で目撃し、仔細に眺め、思わず裏を返して「仕立て在りき」に唾を飲み、鉛筆でそっと線を引いたような設計美と、縮絨施術が施されたような力強い生地と、通気性,吸収性,発散性をもつ打ち込みの良いコットンリネン無垢の裏地、テーラードの前型でもなくそのまた前型とも呼べない限定的かつ仏的な前立てのカッティング/フラットアプローチ、エレガントな前振り袖,精妙なフォルム、多くの紙幣/金の出し入れを容易に遂行するため施された内側の約30×40cm巨大ポケット、袖丈を20cm前後調整可能なカフスの折り返し、何より、極モダンかつ圧倒的モダンかつ超絶モダンかつ驚異的モダンとも謂える同年代区分では絶対的に有り得ないこのフィッティングプロポーションというのを、袖を通して体感しようものならわたくしのドラマティックエンジンはいよいよをもって始動されるは不可避の事象で御座いまして、わたくしのこの抑えも利かぬ熱量と一月前からそのように暴走している私的欲求と、“超現実主義=シュールリアリズム” が見事に昇華されたこの個体を一体どのように御伝えすれば、一体どのような方式をもってご紹介すれば、いかなる時折が望ましいか、わたくしのこの抑えも利かぬ熱量を、一体、どのようにして、どのようなふうに、如何様な程に、御伝えすれば宜しいか、悩みに悩んで綴らせて頂いている只今であります。
New arrival & Special 1870-1890s France , Bankaers coat.
例によって、この時期のこのタイミングのDiaryへの選定というのは、選ぶも愉しい、しかし、絞れず、辛い、が、通説で御座いまして、パッと目があった個体を綴ろうと決めたり、勝手ながら私的ストーリーを持ち合わせた一品を選ばせて頂いたり、シーズンによって様々で御座いましたが、2018A/Wこの時期のこのタイミングのDiaryへの選定というのは、極めて例外的とも謂えるもので、当初から(一月前から)ファーストエントリーとして決定しておりました。それほどの訴求力とパワーをもった衣服は極めて少なく、デザイナーの手腕と熱量が注がれた個体、ミリタリーのパーソナルピース、個人が愛用した痕跡、世に溢れる衣服/洋服の中でそれは限りなく少なく、直感的に心震える感動を齎す衣服というのもそれ以上に少ないと思いますが、わたくしの場合、本作が其れで御座いました。著名のデザイナーが携わった服か、無名のアノニマスピースか、イタリアの巨匠が生み出すテキスタイルか、40sハンドニットの精妙さか、その感動というのは皆様それぞれで御座いまして、それぞれの「熱量」が備わるものと存じます。それが弊店の空間でなくとも、皆様にそのような御縁と感動がありますことを、心より、願っております。
ご挨拶が遅くなりましたが、A/W立ち上がり初日より御立ちより下さった皆様、本当にありがとうございました。
先日の福留と、本日のわたくしに続き、明日より1点(あるいは数点)ずつ、ゆっくりご紹介させて頂こうと思いますので、御暇つぶしにでも成り得ましたら幸いに思います。
まだ暑い日が続いておりますので、水分補給を忘れず、どうぞご自愛下さいませ。
弊店一同、皆様のご来店を御待ち申し上げております。
SURR by LAILA 小林
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