イタリアの自由さと愉しさ / Diary579
20.8.2018

心から喜ばしく有難い限りな “ 何から御紹介するべきか ” 状況の中でも、この時節はやはり特出して悩ましい限りではありますが、いくら悶々としたとて最終的に選ぶのは私情をより強く反映させた品に着地することはここ数回を経て自覚致しておりまして、今期のそれは名を関する意味合いでの看板力でも歴史性でも文化力でもなく、一個人の感覚器において極上という数奇に悲哀なる意義の一着。

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私はこの生業に就いて, かつ SURR という存在が出来てからは一層, そして自身の口から発するにあたっては特に “ 言葉 ” というものを重要視しており、それは第二者以上においておそらく重要ではなく, 特に必要でもなく, 時に無粋な観点であることを十二分に理解ながら人知れずひっそりと過ごしております。それにしても、時間や時代において変化する言葉の価値や意味合いや、何より自身における印象, 自身の中だけの意味合いの印象 には本当に強い機微を抱きます。( 直近では御客様から マジマンジ を教えて頂き、慟哭に近い衝撃を受けました )
ここ 3 年ほど折りに触れて考えており未だ答えが出ていないのは “ 製作背景が判明している品の名称区分け ” です。メゾン, デザイナー, アーティスト, メイカー, ファクトリーなど幾つかある中でそれぞれの品や存在をどのように捉え、どの区分けで表現するか未だはっきりとしておりません。

その論点で申し上げますとこの度の御品は メイカー に属しまして、名を馳せた創り手によるものではなく ( そうだったとしても現段階で私は知りえない ) , 由緒正しき背景があるわけでもなく, 根本として着飾るためのファッションピースではなく, そして広く視たときその分野に特別な崇高性があるわけではなく, 古い時代の品 ( 約 50 年前は充分古いといえば古いですが ) でもございませんでして、それでも御紹介させて頂くのは、私という不肖かつ矮小で何より性悪な一個人が純粋に感動したという豆腐よりも頼りない、かつ異常なまでの私情度合いによるものです。

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服飾史におきましては数多のメゾンやデザイナーが名作を繰り出していた芳醇期であり、文化面におきましては様々が独自に発展し続け時に交錯した良い意味で混沌とした 1970 年代に製作された本品は狭義で捉えれば趣味区分, 広義で捉えれば労働服の類に属す、着飾るための衣類とは対極に位置する目的性のみに特化した背景を有します。その目的は象徴的は背面ポケットが雄弁に物語る通り “ 狩猟 ” です。私はこれまで前述してきた全ての要素を差し引いて ( というよりそれらの要素を認識するより先に ) デザイン精度, ディティールの独自性に心の底から強く強く感動し、お世辞にも便が良いとは言えない英国の土地に居を構えるコレクターさんのもとにて一人出逢えた喜びを抑えることができず、やたら興奮した不審なアジア人としての姿を孤独に晒したのでした。

上質さを論点としない工業的な縫製のせせらぎからシュッと斜めに伸びるバストポケットと、そこからグッとカーブしてシャッと終わるサイドポケット。利便性においても活動力学においても、そしておそらく製作効率においても理に適う、看板にも歴史にも文化にも属して語る必要性のない製作者不明の独自力。これこそ デザイン です。

 

 

 

 

 

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70s Itary, hunting jacket.

最終的には本品がイタリアのクリエイションであることが判明して興奮は収束しました。この感性の自由さを感じさせる, 製作そのものとその後の活用を愉しもうとしているように感じさせる佇まいと ” イタリア ” という記号に対する私情が寸分違わず一致したことで腑に落ち、やたら興奮した不審なアジア人からただの不審なアジア人に戻ることが出来たのです。

 

 

SURR by LAILA 福留

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