Hand finish & Bacter / Diary197
23.10.2015

例えば。
“ 一つのジャケットを仕立て、それを一人の男性に30年間愛用してもらう。それを回収し、作品として完成。”
哲学に則って育まれたカリームの美意識において、これがクリエイションの一つの理想です。しかしながら現実問題として難しいがために様々思案と試行錯誤を繰り返した末に生まれたのが前回のエントリーでご紹介した 4Saison なのですが、その後も構想と行動を繰り返した末に彼の表現は更なる進化を遂げました。

 

 

 

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その一つは “ Hand finish ”

クリエイションの過程で生じる自然の力が洋服に与えた変調に対して、様々な手法を駆使し調整的デザインを施すのですが、それらは全てアトリエチーム在籍の一人の女性によって行われています。

 

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時に膨大な箇所に及ぶそれらを一針〃,一編み〃。途方に暮れるほどの時間を費やした結果、完全手仕事のクリエイション・ピースに到達します。決して無作為に行うのではなく繊細な配慮と心意気をコントラストとするそれらは、100年前の人々が行っていたファッションを目的としない “ 明日着るための施し ” に近しくありつつも、あくまでモダンクオリティ。
これを初めて目にした時は心が震える共に、カリームが持つ感性の儚さと、その女性の技術力と探求心と、何より “ 手仕事 ” に敬意を払う職人賛歌の姿勢に、心から敬意を覚えました。

 

 

 

 

 

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そしてその一つは “ Bacter ”
名の通りバクテリア=微生物の力を借りて行われる、より独創性に富んだクリエイションです。
微生物はもちろん自然界に累々と存在するため、 4Saison でも恩恵を受けていますが、それをあえて人為的に生成し培養液に衣類を投入。微生物は “ 天然素材を食べる ” という一つの特性を持っているため、コットンやウールなどのマテリアルが部分的に変調し、4Saisonとは異なるアプローチが完成します。

 

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時に上記の Hand finish collection と組み合わせて調整的デザインに到達させるのですが、更に特徴的なのがテキスタイルデザインにも似た色調変化です。
 

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不規則かつ不可解な濃淡と紋様は一切操作する事が出来ず、微生物の完全主導による変調。まるで抽象画を纏っているかのような偶発的テキスタイルデザインにはカリーム自身、驚きと興奮を覚えたそう。

 

 

 

4Saison 、Hand finish 、そして Bacter 。これら全てに共通するのは “ 人の手による作為を起点としつつ、終着に向かうまでが完全なる自然の作用 ” という事。
各変調はそれぞれが異なるベクトルに向かっているため、衣服として捉えた時に ( 誤解を恐れず表現するならば ) 違和感を覚えますが、作為で始まりつつ自然が大きく作用しているため、その違和感は逆に心地良く楽しいのではと思います。

 

時にモード、時にエッジィ、何よりアヴァンギャルドでエレガント。
私の主観ではありますが、ここ数年で感じた事のない興奮と刺激を覚えるリアルクローズです。

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Karim Hadjab のアイテムは全て一種の未完成。
袖を通し、実質的に生活を共にする事で生じる風合いや味わい。ボタンを縫い直したり、時に解れや破れを御自身の手で調整するといった全ての行いで常に変調し続け、進化し続けるのです。

カリームの口癖。『 私はきっかけを創っただけだ 』

 

 

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