服を楽しむ一人として / Diary354
28.1.2017

SDIM0982

先日は合同企画にお付き合いならびにご査収、ありがとうございました。ほんの一滴でもお楽しみ頂けていましたら、ほんの僅かでも何かにご興味頂けていましたら嬉しく思います。一着を主役とし、二人がそれぞれ表現するという目論みでしたが、並べて視ると終わってみると感覚の違いが際立ちまして、私としては有意義でした。スタイルに正解は無く、全て違って全て良いと改めて切に想う次第です。

合同企画は今後も不定期で催させて頂く予定です。なお、私の中では既に新たな案が芽吹いているのですが、例によってそれも大した生産性が無いものの、携わる者が楽しみ、その温度が SURR の要素の一つとなってくれたらと思いますので、その際はまたご都合宜しければお付き合い頂けましたら幸いです。

 

 

それでは今回のエントリーにおきましては、個人的に滅多に得られない熱量で感動させてくれた一着を御紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

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大いに実験的で挑戦的で、前衛的で革新的なコレクションを 10 年かけてモードの世界に提案してきた人物が新たな軸で展開した世界は、それまでとある種の逆をゆく極地的な正統派であった。   Maison Martin Margiela が99年に発表したメンズコレクションを、私はそう捉えています。
彼の感性と肌感覚のふり幅と、それを実行する決断力と、それを実現する実力には本当に感動させられると同時に、その正統的な一着一着に秘められたメッセージにも服を楽しむ一人として純粋に心から感銘を受けるのですが、こちらのニットには、いやニットプロダクトには、本当に心から驚かされました。

 

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フランス軍において着用されていたコマンダーニットをお手本とした本品は、その背景に則ったミニマムかつ性差を問わないスタイルとしての ” 強さ ” を秘めています。船底を模したボートネック、コンパクトにフィットする長くタイトなリブ、可動域の広さと着用を重ねるうえでの明確な利点となるアームの接続、強固さを演出するかのような詰まった編み。それら全てに洗練性とモダニズムをもたらす素朴で実直で、何より品性に溢れるウールクオリティ。
そして、正統的なニットとしての構成でありながら、それに秘められたカットソー、いやカットソーというよりも肌着という表現が相応しい ” 成り立ちのメッセージ ” に心が震えます。それは首元などの折り返しをご覧頂くと顕著なのですが、各所の仕上げに古き良き肌着のそれが採用されているのです。

これらは本当にささやかな要素ではありますが、一般的なニットには注がれる事のないアレンジですので、やはり着用時に心地良い違和感的輝きを効果的に発揮してくれます。この、極地的正統派に秘められる、有り体に言えば ” マルタン・マルジェラらしい ” スペシャリティーは、彼が過去 10 年間に表現した様々な大胆なモードと根底で繋がった、彼だけが持つ感性の別の形なのでしょう。

 

 

 

そして何より興奮し、その興奮が収まると火照った心にふと “ このようなこだわりの形は、もはや頭がおかしいとも言える ” という想いを芽生えさせたのは、誰に向けてでもなく、着用者に対してのみ真摯に発されているであろう、編みを通したメッセージでした。

 

 

 

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ニット全面に “ 点 ” をご覧頂けるかと思うのですが、まるで着古して糸が抜けているかのようなこれらは全て、編みの段階で施されたニットワークなのです。不規則ドットのように並ぶ一つあたり 2 mm弱のそれは、前述の通り着古したスタイルそのものを表現しているのですが、不規則でありながらどこか規則性を感じさせつつ、全面に渡ってロングショットで視れば均等とも言えるコントラストで配置されておりますので、やはり純粋な着古しとも異なる存在感を発揮してくれるのですが、

とにもかくにも分かりづらい。例えば向き合って話している相手が1時間ほど経った時に初めて気付くような。それも Bar などの薄暗い環境ではなく蛍光灯照明や太陽の下で、何より相手が勘が良くてはならないという条件が揃って初めて気付くような分かりづらさ、繊細さなのです。

 

 

 

 

 

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99s Maison Martin Margiela , military styl knit product.

さて、ここまで書いて一旦コーヒー小休止。落ち着きました。
とにかく正統派でありながら明確なメッセージと、捉え方によっては、誤解を恐れずに表現しますと頭がおかしいとも言えるこだわりが、想いが注がれた一着です。

服などの物質たちは現実的にも暗喩的にも言葉を話して主張しませんが、しかし、ある側面においては現実的にも暗喩的にも明確に主張してくれます。話し方はそれぞれですが、中にはこちらのように口数が極めて少ない、ある種ゼロとも言える一着が存在しますので、その服に替わって言葉を発して主張することも私達の大切な生業だからこそ、この度御紹介させて頂きましたし、この服の主張すべき要素が特出しているからこそ、 SURR の空間において現在は特別な形式で表現させて頂いているのです。

これについて書けて良かったです。琴線触れられましたら、是非に。

 

 

SURR by LAILA 福留

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