“さよならGucci“ / Diary1261
27.9.2024

ファッションデザイナーという役職に初めてクリエイティヴディレクターという付加価値を与え時に過激に時に特出して上品なクリエイションを発表することで存在価値を高めるだけではなく当初2億ドルであった年間総売上を32億ドルまで押し上げたものの親会社と意向が合わず2004AWをもってGucciを去ったフォードさん。そのショーでバラの花びらが降り注ぐ中ウイスキーのロックグラスとタバコを片手に彼が現れた時に流れていたBGMはUltra NatéのFree、“自分の人生を生きる,やりたいことをやる,貴方は自由“。濃密なメッセージでした。

 

 

服飾史をヴィンテージカルチャーにしっかりと向き合い圧倒的な感性で自己再解釈したフォードさんはGucciの歴史において様々な名作を生み出し御存知の通り現代のクリエイションにおいても今だに重要な存在価値を有し続けていますが、ことエレガントなメンズドレススタイルはラストクリエイションの軸となっていることからも彼にとって重要な世界観であることが伺えます。Gucciという歴史ある大看板への敬意,服飾史への敬意,そして自身のクリエイティヴィティ 。この三要素が信じられないほど美しく調和したこちらのチェスターフィールドコートもまた“さよならGucci“というメッセージが込められたラストクリエイションならではの一着と言えます。

見事なまでに豪奢な襟,造形的なボタン配置,特徴的なフラップと各所にフォードさんらしい味付けが際立ちますが、それはあくまで紳士服としての基本に則ったもの。テーラードジャケットの原型となった古来のチェスターフィールドバランスであるコンパクトな着丈を取り入れた点には特に歴史へのリスペクトを感じます。フランネルのブラックカラーというこれまた王道であり古典的でもある要素性ながら上質な素材感と各所に光る手仕事の存在感,隠されたGucci刻印の水牛の角ボタンまでもが相まって発する男性的エレガンスを煮詰めたオーラは信じられないほど濃厚。これぞ“トム・フォードが手がけたGucci“と鼻血および拍手が止まりません。

 

 

 

 

 

New,2004AW Gucci by Tom Ford pure wool chesterfield coat

 

最後のクリエイションはフォードさんの中に渦巻く性的要因を言動力とした快楽主義的思想の魅力をデザイナーとしてファッションの形で表現したからこそ高く評価されました。ゆえにこのコートは見た目に分かりやすいデザイン要素やアレンジ要素はなく服飾史に懇切丁寧に向き合った古典的なプロダクトでありながらも分かりやすいデザインやアレンジ以上の存在感を発揮することができるのでしょう。

フォードさんの“さよならGucci“の愛情が込められた一着、ちょうど20年経った今ご覧になってどう感じられますでしょうか?

 

 

SURR 福留

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