福音 / Diary657
20.1.2019

 

 

 

論を持たずして無意識的に自然希求してしまう有機物、ないし遺伝子学から解き明かさねば理解に苦しむほど大好きがとまらない限定的な事柄、皆様もお有りかと存じます。女性のレッグラインかもしれませんし、ピークドラペルのダブルブレストかもしれませんし、南米産カブトムシの角のフォルムかもしれませんが、わたくしの場合、木綿という繊維で御座いまして、コットンというお素材に拘束されて幾らか時が経過しました。天然木綿の上澄みを求めては推し量る術のひとつに、それを上下に振る→音を聴く作業を守っておりまして、名の通り世界最高密度を誇るヴェンタイル社の其々を知った辺りからだと記憶してますが、そもそも朝の歯磨きと同じようにルーティーンとして組み込まれている マイジャケットを上下に振る は、スッと上昇させバシャっと振るう正確無比なダイナミズムに達することによって繊維の隙間に空気中の酸素を取り込み呼吸させ、昨日の気持ちをサッパリ落とす、本日をスッキリ迎える、ような気になるので危ない事に習慣化しております。密度が濃いほど世の中の擬音では表せないコクのある音が鳴りますので、ヴェンタイル社の其々にとって謂えば、いつの日か書かせて頂いた気もしますが日本テレビ様の「音のソノリティ」にフォーカス頂けるのではないかと確信に近い想いを温めておりますもので、しかしながら必ずしもコクのある音は密度に起因しない、という結論を得てから3年、イギリス軍コールドウェザーライン(これは密度)や、陽光と水と大気を連続的に得てきたフレンチワーク、KARIM HADJAB自然個体が見事に証明してくれました。それぞれ音の高低や質は違えど、空気中に振動する奥行きは確かに存在していて、“コクがある音” によっていつの間にやら木綿の善し悪しを判断しているわけです。そもそも語弊がある気もしますが、論を持たずして無意識的に自然希求してしまう事柄は、繊維というより記憶に浸透する木綿の “音” かもしれません。

 

 


 

これは謂うなればわたくし個人の論の裏付けがない術と癖で御座いますので、コクのある音が鳴ならない真実も素晴らしき木綿かもしれませんしコクのある音が鳴らないが上の質を有する木綿達の真実をコクがある音が鳴らないもんだから振るいにかけられる木綿達の気持ちになってみればたまったもんじゃない。わたくしの気が触れているのかもしれません。そういうことで香しき御品との御縁が相成れば眼鏡をずらせながら上下に振っているわけですが、あまりにも音にコクが存在しすぎるとポリエステルとかナイロンとか少し混在しているのではあるまいかと(全く以て良いのですが)表示証明や専門機関による素材検証の終了までしつこく疑惑を持ち続けるわけで、答え合わせがコットンと判ると其の純真さに嬉しくなる気持ちよりさらに先の疑問が生じるので少し苦しく。では一体、この濃厚なコクはなんだ。

 

 

 

その苦しみと同居する “あまりにもコクが鳴る木綿” を勝手ながら上澄みと判断させて頂いているわけでありまして、それは謂わば “音の旨味” で御座いますし、幸せを運ぶ “福音” とも捉えております。

 

 

 

ところで90年代中期〜2000年初頭に視られるHelmut Langの無機質な力強さを想起させる本作イタリハウスは弊社にとっても初の獲得に至りまして、服本来の力をストレートに御感取頂きたい想いから店頭にて琴線触れて頂けた皆様にアナウンスをさせて頂く運びを取らせて頂きます。勝手をご容赦下さい。ミリタリーが基底と成っている実相もやはり上記ハウスの想起点となるのでしょうが、無機質には終わらせない足し算の美学を心得ている凝縮性と真に迫った創り込み、服本来的なエネルギーを螺旋のように纏う単一的かつ沸騰したパワーは本作がUOMOである事実のみでは決して裏打ちにはならない 芯 が御座います。資料には書かれていない設計美と防風性の獲得は立体的かつ精力的に持ち上がるネックの高さに結びつき、フォルムのストイックな変化を愉しむより身体に追随させる2カ所のドローコード、ロマンティシズムへは触れていないプラクティカルな実践的精度の異常な高さ。観覧用ではなく、着て動かねばなりません。ディタッチャブルな近代性は無視、傘を持たない一部のヨーロッパ習慣に必要とされるフード / パーカーというファンクション、Royal navyの名作を掬い取った背面上部の景色と、1940年代米空軍Air crewの最高傑作を全的に従えた渾身のフィールドバックは、コンセプチュアルと判断するには調味料が足りない素材本質的の旨味、時間経過を危惧したところで決して失われないノーブルな香りもブラックコットンのみの特有性と憶いますし、ビックフォルムの提案ではない洗練されたフィッティングバランスへはとても大きく心を動かされまして、アウトドアまでギアを振らせていない制御点、資料性、本域的であり都会的であるプロポーションへ辿り着く恐ろしいほど見事な 福音 は、スキニートラウザーにバサっと羽織るミラノのティーンエイジャーが浮かべばナポリのダンディな髭面が腕を張らせて着ている想起点まで、つまりは都会に活きる強烈な匿名感取とリアリズムを成功させた純真の 街着 が結論で御座います。ジップを上げる度、フードを被る度、着脱の度、転んで起き上がる度、幸せが運ばれることを願いまして。

 

 

 

 





 

 


early00s Italy mason UOMO high-quality cotton short coat
base, late40s US military air force crew N-3 parka

 

先週の「音のソノリティ」は宮崎県日向市、蛤碁石の手摺りで御座いました。バックナンバー共にオフィシャルサイトで視聴できますので宜しければ。ちなみに本日夜21:00放送です。

 

それでは皆様、素敵な週末を。

 

 

 

 

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