先程のお話の中でも触れさせて頂きましたが、プレタポルテ/既成服という内容が封切りとなった60年代以降。より美しく魅せるためのファッションにおける意義は、専ら女性のために存在していると、それは歴史こそ根拠であり、今でもなお変わる事のない内容と思っております。砕いて申し上げましても、そりゃ女性に美しさで敵うはずないでしょう。そして今でもなお変わる事のない/女性のために存在しているファッション又はデザイン或いはそれらを根底に敷いたエレガントな要素、それを如実に、そしてシンボリックに存在し続けたディテールのひとつに “ fur ” があることは、自明の事のように思います。何故ならそれを具した衣類を、ヴィンテージという区分において、メゾンというテリトリー内で、そして男性用の仕立てでは見た事がないから。反対解釈では明確なもの。難しく捉えなくとも、やはり同様に思います。
そう、今でこそ、例えばドリス氏のクリエイションにも積極的に取り入れられ、より広域な意味で認知されている内容だと思いますが、まさかプレタポルテが拡散し始める少し前の時代に、紳士用衣類において、“ fur ” を具した内容が存在しようとは。当時その瞬間では、おそらく男女の線引きなど存在せず、男性を具体的な目線でエレガントに魅せるため、少なからずそのようなベクトルが全体網。その “ エレガント ” とは、美しさなのか、将又、強さなのか。いずれにしても女性に敵うはずがないのに。
そして意図的にチューニングされたこのディテール、取り外しができることは横に置きましても、上質な “ ヌバック ” のみを贅沢に使用、ガンフラップやエポレットなどミリタリー要素を限りなく排除、 “ トレンチコート ” として仕立てられた完璧無垢な1着。
言葉のとおり、完膚なきまでに打ちのめされました。
ヌバック或いはスウェードという御素材で、ミニマリズムを表現させたような仕立ての良いコート。左岸を颯爽と歩く男性が着こなしていた其れは、記憶を遡ると5年前程に仏発行のとある広告を目にしたときで御座いました。それからというもの、心にずっしりと降ろされてしまったアンカー。そこから解放されるためアンテナを3本ほど張り、なにかと足も動かしましたが、見つけたのはHのあれと、「シングルマン」発表以降、7年振りの新作が世に賑わいを齎しているTの1着。生産事情があるのか、純粋にブランディングの精査によってなのかは知る由も御座いませんが、時代問わずも世に出現しない区分であると、感情を無にリセットしましてもそのように思います。
5年が経過し、アンテナを3本ほど張り、しきりに足を動かしたのは弊店バイヤーの福留。わたくしは足を動かさず座して待ち続け、マンションの1室にて対面が叶ったこの1着は、当時、欲望のまま条件を箇条書きにしたくしゃくしゃのメモに頼らずとも、一目瞭然。
言葉のとおり、完膚なきまでに打ちのめされました。
上質なヌバックとは、なんでも質が良いと謂えば済む話と厳しいご叱咤を頂きながらも、やはりこれも言葉そのままなのです。声を大にしましても、“ 上質なヌバック ” 。日差しが入る気持ちがよい時間に撮影が叶いまして、故の各カットより、その上質なヌバックなるテクスチャーを具体的なイメージとしてご想像頂けましたら幸いに思います。モールスキン地の表面0.03mm、又はフランス製のピーチスキン。手によく馴染み、くったりとした革質を衣類として自立させるべく立体的に起こされたパターン。
例えばショルダー。パッティングが施されていないにも拘らず、アームの付け方がまぁ素晴らしいもので、故に、肩幅によるフィッティングをセンシティブに捉えずとも成立する着図。普段44又は46の小林でも、48又は50(怒られそうです)の福留でも成立致します。裏地、パーツ、プレートの入り方、バックスタイルには大胆に施されたアクションプリーツ。確かこのディテールはミリタリーが起源と記憶に御座いますが、メゾンのプレタポルテで最初に取り入れたのはPierre Cardin。各所、過敏に攻究しましても実証できるこの隙のない仕立ては、2017A/Wプレのタイミングでエントリーした1着でも確認できましたが、同年代の作品とは素直にも納得致します。プレタポルテが拡散し始める少し前、密に、濃く、大胆に表現されたメゾンメーカーの極地は、やはりイタリア。
女性には様々な区分にて敵うはずがない世の中ですが、いつどきも威風堂々と参りたいものです。
とはいえ、あくまで心持ちの話。
威風堂々と身体に纏わせながら、謙虚な心を常とし、女性を立てるアダルトな男性にこそ。
「ヌバックのトレンチコート」
たとえばこの組み合わせは、エレガントな男性という像を思い描く際、必ずと言っていいほど付き纏う具体的なイメージ像であると同時に、ある種の “ 憧れ ” に近い内容でありながら、いざ過去の作品を探したとて、そこには具体性を孕んだ男性的な衣類が存在しないのもまた事実。やはりファッションというステージでは女性が主役のムードが強い当時、(ファッションという区分に限らず、主役は常に女性でありましょう)男性にとっての仕立て、たとえばヌバックという御素材で、たとえばトレンチコートというシンボリズムで、たとえば毛皮を纏わせる内容ともあれば、それはもう別次元。にもかかわらず、出逢いが叶ったこの1着は、それら全ての要素を完璧なまでに捉えた濃密な逸品であると、お披露目が叶います事を素直に嬉しく思います。ヌバックのトレンチコート。
70s GUCCI nuback trench coat with remoravle fur collar
「冬の革」どうぞじっくりとご賢察下さい。
SURR by LAILA 小林
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