Antwerpen / Diary425
28.7.2017

 
1993年〜2001年
 
アントワープ王立芸術学院のファッション科を経てモードファッションに進出した彼女が自らのクリエイションにその頭脳と手腕を揮った期間は、僅か10年未満。その限定的な時間の中で儚くも色濃いデザイナー人生を歩んだ彼女の感性は、その後、人財育成の分野で発揮され、現代のファッションシーンに脈々と引き継がれたとされておりますが、彼女が最も評価されるべきは、ファッションシーンに一石を投じた数々の功績を脇に置いても、第一線で製作し続けたコレクションピースであると我々は感じております。
ドリス・ヴァン・ノッテンやマルタン・マルジェラ氏の7年後輩にあたる彼女は、文頭の通り、1993年に小物のデザイナーとしてデビュー。専ら、製作するにあたって一貫して拘り続けたひとつの素材があるのですが、彼女の出発点とも謂うべき小物類は、殆どが “ その素材 ” で構成されておりました。後に発展したフルコレクションは、第一歩を踏み出した素材があってか、彼女の脳内の要素が既にそうであったか、一部を除いて大概がモノクローム・トーンという彩度を排除した世界。音楽への造詣を活かしたアントワープ出身者らしい濃密さとマニアックさは、当時においても、現在におきましても、一層と際立つものでしょう。
 
 
堅苦しい前置きはここまでとしましても、声を大にして申し上げたいのが、彼女が試行錯誤の末に辿り着いた “出発点なる作品” や、手腕を揮った全盛期の作品が、素直にも、真から素晴らしいと思えるプロダクトであるという事。
 
 
先ずは、 “ その素材 ” に関しまして、以前ご紹介した1点を口切りに。
 
 
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謂わずもがな、 “ Leather ” で御座います。
 
 
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誇大して申し上げるつもりは毛頭御座いませんが、今まで視界に捉えてきた彼女のレザープロダクトで「普通」と感じたことは一度もありません。突出して90年初期〜中期にかけての彼女のレザーへの選定は本当に素晴らしいもので、“目的”に乗じて確実に条件を満たすのが前提か、モノや衣類によって多種多様に使い分ける程。前述の通り、彼女の出発点ともいうべき小物類は一貫してレザーを用いている事から、革質に対しての熱量がそれは半端ではなく、クリエイションにおけるキーマテリアルであると同時に、〜といえば、というイコール的存在と謂いましても過言ではないでしょう。1999awにマルタンマルジェラ氏が発表した名作中の名作と詠われている、とあるレザージャケット(黒)も同質の素材だったと記憶しておりますが、奇しくも同じアントワープ。大きくも小さくも彼女の波が及んだのではと、想像を巡らせます。
 
そう、彼女はアントワープきっての、レザー使いのウイザード。
 
 
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そして次に記しておかなければならないのが、 “ 工業性 ”
 
彼女がレザーを用いる作品は、“その素材本来の魅力をそのままの状態で表現する” ことを主軸に置いておりますが、その大半が工業的な匂いを付加させております。分かりやすい一例ですと「レザー と ジップ」のように、謂うなれば生命の先に位置する革に対して、無機的かつ工業的な匂いを纏った金属,鉄製,アルミ,ステンレス等をチューニングすることによる前衛的アプローチ。施すか、施さないか、否、前者であるからこそ生じたモダン性は、最高レヴェルまで急上昇しながらも、使用する前提である“道具”としての理解すら与えるので本当に凄いです。
 
 
 
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90s Lieve Van Gorp leather T-shirt with Zip
 
 
 
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彼女を代表する作品において、マスターピースと位置づけられている「バッグ」。初期のクリエイションから一貫して拘り続けたひとつの仕様が、手に持つことのみを許したハンドバッグスタイル。硬く、しなやかで、光を吸収するような漆黒。しっとりとした油分を多く含んだようなキメの細かい質感は、J.M WESTONのブラックカーフと同等の印象を受けます。力学的な作用を完璧に捉えたかように、最少数に打ち込まれた鋲。恐ろしくミニマムな作りながら、的を得たように簡易的かつ頑丈そのものは、縫うという行程も目立たぬよう確実に施してある点と、バッグとしてのモノを持ち運ぶ機能をデザイン性を超えた位置に的として定めている点。エルメスやセリーヌにみられるボリード型のバッグは、弧を描く外形に対して持ち手の長さを完璧に計算されているからこそ認められる使いやすさですが、本品も同様に、39cm×40cmと正確無比なカッティングは、正方形に見えて実はという拘りと、ガーメントバッグのように2つ折りの仕様は中を空洞にし、約13cmのハンドルはそれが計算の上かは扨措き、全て驚異的な“軽さ”を実現するための布石。
 
メインコンパートメントを2つ設け、ジップの開閉のみのシンプルな構造、空洞の片面に同じくジップによるサブコンパートメントと、計3つの収納ながら、ニュースペーパーやマガジン、ドリンクボトルなどは中央のこの空洞に挟んで持ち運べる事から、4つの収納部屋を確保。そしてベルトの調整により実現する最大幅のマチ。ダブルコンパートメントのこのシステムは初見の構造です。
 
 
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Newarrival 90s Lieve Van Gorp leather bag “ Garment style ”
 
 
 
 
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この1点に関しましては、Lieve Van Gorpのバッグというより、純粋にモノを持ち運ぶ道具としてお認めを頂きたく存じます。
 
ノーブルな雰囲気におまとめ頂くのも一興。
そして彼女に経緯を払い、モノトーンの構成で御座いました。
 
ご縁御座いましたら、是非。

 

 

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