余白 / Diary821
15.1.2020

Dries Van Noten 氏による新しい雛型に限らず弊店で御提案させて頂くほとんどが該当するのですが、服, とりわけ洋の服は身体に沿わせて鏡の前に立つ姿よりも実際に生活して活動するその瞬間, 身体が動くことで衣類も動くその姿が本質であると私は強く感じ、鏡の前で立つ姿は本質の 30% ほどしか発揮できていないとすら想うほどでして、事実私は自身の買い物において鏡の前で立つ時間が極めて少なく、そこでは肩の添い方であったり着丈の現れ方など身体全体の幾カ所を確認するのみで判断致しております。その幾カ所さえ合致していれば, 良いと想いさえすればあとは生活の瞬間にてハンガーにかかっている姿よりも鏡の前で立つ姿のよりも圧倒的に蠱惑的な本質が、身体の動きや筋肉の振動に併せて予想もしていない形状や表情にて魅了してくれます。そして生活の瞬間に本質を魅せてくれる服こそが良い服, 理念や設計や素材や職人技術など諸々の事柄において “ 上質 ” な服なのではないでしょうか。 という内容を店頭にて度々話させて頂いておりますが、それにおける一つの欠点と言いますか問題は、自身の眼でそれを捉えることがなかなかどうして叶わないという点でして、しかしながら自身の眼でなかなか捉えられないものの、他者がそれを捉えられるのであれば “ ファッションを好きに成ったきっかけはモテたいから ” の論筋派閥である私にとっては充分ですし、ふとした瞬間, 例えば昨今であったら友人知人の SNS に自分が映り込んだ瞬間や誰かが撮った写真などで動く服の本質の姿を眼にした時に 私はこんな格好良い服を着ていたのか と驚ける瞬間もまた極めて極めて愉しいものですので、いずれにせよ、やはり、ハンガーにかかっている姿よりも鏡の前に立つ姿よりも圧倒的に生活の瞬間の姿が大切であると切に想います。

 

その要因と成る大きな一つは服に配置された余白です。とりわけ洋の服におきましてそれらは極めて重要かつ秀逸で、複雑怪奇ながら面白くて仕方のない人体の各曲線を重要視し、その要素の研究を服飾の発展と並行して行ってきた洋の文化における服たちは、いつの時代であろうとどのような理念であろうと、余白という要素を欠かさずに備えておりますので、ゆえに生活の瞬間に現れる本質が一層に輝くのです。( 中には 脱いだ後の服の姿 を重視して創造を続けた傾奇者も居ましたが )

皆様方、下半身の服はお好きでしょうか。私は気分によっては上半身の服以上に重要視する時があるほどに下半身の服を好んでおります。ジーンズ, ミリタリー, チノ, コーデュロイなどなど様々が在る中で私が最も活用するのがいわゆるで言うところのスラックスでして、これは時節を問わず常に求め続けており、旬の素材表情もまた良きものなのです。それこそ稼働の多い部位ですし移動時の揺れ動きも顕著な下半身ですので、生活の瞬間の本質はそれはもう愉しく、身体に寄り添い余白を削ったプレーンな設計はもちろんのこと、稼働を加味して余白をしっかりと設計したからこそのドラスティックな設計もまた、大変に大変に格好宜しいのです。

 

 

 




「 タックという機能装飾は本当に秀逸で、座った際の広がりや立った際の納まり、それこそ生活の瞬間において赤子の如くよく動きまわってくれまして、かつ自動的に結果的に余白が広く配置されることになりますので、そこから下の部位に与える揺れ動きのふり幅は極めて大きなものとなるんですよ。もちろん高めのウエストポイントが求められたり、素材によっては余白による上半身の服への影響もございますが、全てを鑑みたとて布陣の一つとして心から御提案したいと常に想えるのがこれらタックトラウザーという存在でございます。
なんと言ってもね、生活しやすいものですから。一度味わってしまうと忘れることのできない魔性性なんです。もちろん一見致しますと余白の少ないプレーントラウザーの方がシュッとスマートで綺麗じゃないかという御気持ちも分かるのですが、実際のところ余白の多いタックトラウザーは生活の瞬間の姿が本当に愉しくてですね、それこそ瞬間瞬間でプレーントラウザーと同等のシュッとしたスマートな姿を魅せてくれますよ。こちらは Valentino における uomo の初期時代の一本でして、この頃はモードとしての紳士像提案に加えて品質意識が極めて高い時代だったものですから、弊店は Valentino uomo を初期時代とそれ以降の二種類で捉えているのですが、粋なことに初刈りであるヴァージンウールのみで構築されておりますので、生活における瞬間瞬間の輝きは一層ですよ。

 

 

 

 

70s Valentino uomo, virgin wool trousers

宜しければお試しになられてみてください。」

 

 

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