旅の跡 / Diary286
21.7.2016

想いを馳せ、郷愁を抱き、また想いを馳せる。 “ 旅 ” が育む様々を挙げるときりがありませんが、その中にはファッションやスタイルも含まれており、自らを移動させるという行動そのものが、服飾の文化やモードの歴史を発展させた大きな原動力の一つではないかと私は考えます。
土地によって異なる食、水、空気。言葉、空間、人。そして文化に対する好奇心や、経験への探求心は育ちや国籍に限定されることなく、性別や年齢に囚われることのない共感覚ではないでしょうか。今回の買付けの旅では、そんな “ 旅そのもの ” に出逢い、恋に落ちました。

 

 

 

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メゾンは、ハイソサエティな人々からの要望を受けこれまでに多種多様な旅行鞄を生み出してきました。大人が楽に入れる特大サイズや紳士の全ガーメンツを一挙に収納できる特注仕様、中には靴一足やハット一つを収納するためだけのトランクなどバリエーションは見事に富んでおり、それら様々な需要に応える行為そのものも、メゾンが積み重ねてきた歴史の一つと言えます。彼らが旅先に赴くにあたって、旅行鞄はポーターと呼ばれる人々の手で持ち運ばれることが定石でしたが、こちらは、それらとある意味逆をゆく一品です。

 

 

1950年代フランスの鞄職人によって創られた、道中を自身の足でまかなう “ 徒歩旅行 ” のための特殊鞄。普段以上の機能性が求められるからこその、アウトポケット配置やレザーストラップの合理的な利便性と、それに伴う機能的デザインとその水準には感動致しました。いわゆるアウトドアの分野も歴史を重ねるごとに高機能素材などが開発され発展してまいりましたが、この当時に活用できる素材を用い実現できる限りの職人技術を尽くしたからこそ、自然な佇まいの中に現代では恐らく思い付けない、見ることの出来ないディティールデザインが満ち溢れております。

何より、 ( あくまで現段階において ) こちらを完結させているのは、過去所有者が歩んだ “ 旅の跡 ” 。
ドイツのシュパイヤー、オランダのデルフト, ロッテルダム, アムステルダム, ハーグ, ホーランド、ギリシャのパトラス、そしてフランスのセット。旅で訪れた各地特産のワッペンが醸し出す、ランダムでありながら統一感のある佇まいは過去所有者が実際に歩んだ歴史と経験あってこそで、ゆえに私はこうも心が沸き立つのでしょう。

旅での出逢いや別れ、発見, 驚き, 時に戸惑い、何よりロマンやノスタルジックやアドヴェンチャーの全てが詰まった “ 旅そのものの具現化 ” 。こうして沸き立つ感情は同じく共感覚として感じて頂けるのではないかと信じて、連れ帰ってきた次第です。

 

 

 

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Newarrival 1950s France, walk travelers bag.

このようなタフ・バッグは、これまでにセレクションしたことがありません。好んでいないわけではなく避けていたわけでもありませんが、カジュアルなバッグパックが市民権を得て充実している現状において、単純に純粋に自分のフィルターを通してセレクションしたいと思える物がなかったのです。

しかしながらこちらは違いました。一目で恋に落ち読み解いて魅了されましたので、基本的に直感に基づく即断即決を信条とする私にとっても最速に近い決断。この感情を経験できた瞬間に、10数時間のフライトは報われます。

 

 

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