クロスオーヴァ- / Diary 780
22.10.2019

時流によりオーヴァーサイズが台頭し始めるころ既に私はテーラーの類が最も好ましく、社会に属するうえで最も自分らしく居られる装いとなっておりまして、それに至る過程にはそもそもにおいてその分野が好きであった好き好みや、若かりし日にスキニージーンズを履いていたら腿の付け根が必ず擦り切れた想い出や、長らく続けていた剣道を辞めたとたん急速に筋肉量が増えた過去や、実は足の親指が短いがゆえに悪い安定感を補うべく肩幅が広く成ったことを知った時の衝撃や、海外ドラマのジェシー叔父さんに憧れて胸筋を付けようとトレーニングしたらすぐに大きく成り過ぎて急遽取り止めた経験などが在るものの、台頭し勢いを増せば増すほどそれらオーヴァーサイズは魅力的に感じ惹かれつつも私が嗜むものではなく、あくまで御客様方などに御提案する装いであり世界観であると考えておりまして、その距離感はあくまで一定であり不変であると薄ぼんやりながらも想っていたのですが、先日の旅にて御世話になっているコレクター様のもとで一着のオーヴァーサイズ・コートと出逢った際、御仁が “ ケンタ、それ似合うよ ” と言ってくれたものの、前述のように想っていたのとそこは鏡が無い空間であったために腑には落ちず、しかしながら諸々の要素にどうしようもなく惚れ込んでしまったため譲って頂き、少々肌寒かったことを言い訳に、本当は体験してみたかったので 今だけ、今だけ と羽織って過ごした二時間ほどで、御仁から投げかけられた言葉が腑に落ち、前述の持論が崩壊致しました。

 

本品は 70 年代に製作されたイタリアン・モードの看板を背負っており、当時としても大人の男性に向けてを軸足としておりまして、オーヴァーサイズ・コートというよりはオーヴァー・コートの概念で、あくまで現実的に中に着こむことを目的としたあくまで自然体な着こなしを目的とした作為も他意もない余白設計ながら、時代を経た今では一言でオーヴァーサイズと称して終わるのでしょうし、それでも差し支えないことと想います。
現代におきまして新旧問わず品々と向き合った際に、モードであったりストリートであったり, クラシックであったりアルチザンであったりと、それらが様々な側面で捉えられ、さらに言えば着る人によって印象が変化致しますので結果的にかなりの細分化が図られることと想いますが、私はテーラーの類が好みでクラシックな装いが最も自分らしく居られると想っておりますので、前述のように現代のモードであるオーヴァーサイズは自分にとって似合わない, 着ない世界と捉えておりましたが、本品によってそれらが交差し得ること、モードなオーヴァーサイズでも在りクラシックなダンディズムでも在る服がこの世に存在することを、恥ずかしながら初めて知りました。

 

それには創り手である氏に対して敬意を抱いているという前提であったり、拡大・延長解釈された襟やエポレット、まるでショートジャケットを重ね着しているかのようなヨークなど各所の装飾を練り上げて元々在ったものと同じくでありながら美意識として昇華させているというデザインの力や、赤紫の裏地などの粋な配慮も相まっていることと想いますが、それにしてもこのクロスオーヴァ―には驚きました。仰々しい言い方かもしれませんが私にとっては実際にこの一着によって今後の選択肢が二倍となった心持ちです。

 

 

 

 

 

70s Valentino uomo oversized down trench coat.

 

とは言いながらも、そう簡単な成り立ちではないことももちろん理解しておりますので、もう “ このような一着を ” と探し求めたりは致しません。どうぜ滅多に出逢えませんので。いつかこのような一着が手に入れば嬉しいです。

あと、真冬のトレンチコートという選択肢も初めてでした。引き続き恥にまみれた人生です。

 

 

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