怪しさ / Diary740
18.7.2019

そして、同日に同コレクターさまの下で出逢えた同じく 1930 年代にフランスで産まれた一つに私は心は掻き乱されました。これまでに幾つかのアイウェアを愛用しどれも異なる方向性で等しく惹かれてまいりましたが、その中でも私の心に最も残っているのは左右対称のプレーンなオーバル・フレームでして、それは数年間愛し続けた末に私の中で生じたとある理由から一時休止せざるを得ない結果となりましたので、その後より同条件を探し続けても一向に出逢えず今に至っているのですが、それと全く同じな一つに出逢い、慌てふためき自身の眼鏡レンズを擦ったりスキットルからぐいと呑んで一息ついてみたりとしたものの、決して幻なんぞではありませんでした。私がこれまでに最も愛し長年追い求め続けても一切出逢えなかった左右対称のプレーンなオーバル・フレームが 2019 年 6 月 22 日、確かに在ったのです。

 

 


もちろん実際は鼻当てが付いていたりフレームに装飾性が注がれていたりと私のそれとは異なりますが、しかしながら全体の構築, フレームの縦横比やブリッジの調和などはかつての愛用品と極めて極めて酷似しておりましたので触れるのに一種の恐れすら抱きました。素材や要素によって異なる印象には常に舌を巻きますが、本品におきましてもそれはそれは見事なものでして、14K を用いたゴールドフィルド製法による従来の鍍金よりも約 200 倍の厚みを有した, 金無垢に極めて近しい素材表情の泣く子を黙らせるほどの強さ, 残酷なほどに美しい存在感に呆れるほどに惹かれ、更に施された装飾性にとどめを刺されました。1900 年代初頭から 1930 年代頃にかけてのアイウェアでは金属に装飾を施すことが多く ( それこそ Oliver Peoples が取り入れた主たる要素です )、細やかに刻まれる紋様によって高い芸術性を発揮する職人技術に基づいた世界観なのですが、本品におきましては細やかかつ豪奢に行えたはずのそれらをフレームと並行して流れる二本のラインにあえて留めておりまして、 “ アンティークらしく ” ありながら “ 現代的 ” というこれまた複雑な矛盾が生じているのです。

しかしながら、なぜプレーンオーバル・フレームに出逢えないのか。 私は本当に不思議に想います。金属によるアイウェア自体はヴィンテージやアンティークの世界における不動な存在であり、ボストンやサークル, 稀にスクエアやハーフリムなど装飾性在る・無い問わず出逢えるにも関わらず、左右対称のプレーンなオーバルには一向に, 本当に一向に出逢えませんで、“ ここに在るぞ ” とどなたか御存知でしたら心から御教え願いたいと心から想うほどでして ( 私がお迎えにあがらせて頂きますので ) 、“ なぜ ” の背景は不勉強ながら存じあげておらず、そもそも珍しくない存在と言われたらそれまでなのですが、私にとっては本当に謎な存在です。そして、左右対称のプレーンなオーバルフレームを顔に乗せた時に抱く, 正直に申しあげまして過去数年に渡って私的に愛用しておりましたので主観ここに極まれりですが、金属によるアイウェア特有の知的さと柔らかさと共に在る強烈な怪しさの中毒性から、私はやはり永遠に抜け出せなさそうです。知的である。優しさが在る。繊細さと美しさも在る。 ( 御人によっては ) 色気も在る。しかしなんと言ってもとにかく怪しい。妖しいではなく怪しい。

 

 

 

 

 

30s French eyewear, 14KGF oval flame.

一昨年の同窓会時期だったでしょうか。友人たちと食事中にふと他人からどういう印象を抱かれたいかという話になりまして、“ 面白い ” であったり “ 可愛い ” であったりが挙がる中、私は遥か昔より一貫して “ エロい ” と想われたがっていることに気付きました。それは紳士性であったり懐の深さであったり純粋な経験値であったりと幾つかの要素が調和して成立することと想いますが、欠かせないのが 怪しさ であると考えます。皆様方が社会に属するうえで御自身らしく居られ, 充足心に満ち溢れて心が豊かになり未来への活力を得られるようなアイウェアと出逢えますこと、陰ながら心より願っております。

 

 

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