服飾意識の第六感 / Diary717
14.5.2019

王道力を磨きに磨いたからこそ獲得した特徴や論点というのは、時に仰々しい装飾や狙い以上の彩りによって存在価値を高めることができる と改めて実感させてくれたのが本品でして、仕立てという物質において, 大人の漢をささやかかつ確実に彩る存在において装飾らしい装飾は施されておらず、もちろん前立てのボタンが一つであったりピークドラペルであったりと仕立てとして高い品位を担うべき解釈は注がれているのですが、それらも言わずもがな王道の王道たるゆえんを根幹から支える要素以外の何ものでもなく、同区分が設立されてから一貫している “ 着用者/選択者の個性や特性に寄り添い、陰ながらそっと押し上げるような存在 ” という創作における根本的な目的意識を想い出さずにはいられない、その無垢な強さを再認識せずにはいられない一着なのですが、ではどこに特徴と論点を見出せるかと申しますと私の場合はパターンメイク、生地と生地の縫い合わせそのものでございました。

 

 

 




それこそ言わずもがな衣類を構築するにおいて欠かすことのできない要素であり手順ですので一個人的に気づいた瞬間はさぞ驚いたのですが、本品は意図的にイタリアのサルトリアのもとで製作されておりますために特有の肩のほんのささやかな存在感とそこから重力に則って展開されるしなやかで妖艶な流線による強弱の美しさが極めて際立つのですが、身体を包んだ際にパターンメイクに伴う生地と生地の縫い合わせそのものに強い立体感が生じ、その “ 線そのもの ” がデザインに感じられる強い, それはもう本当に力強いアイキャッチとして着用者を演出する様は、見慣れている存在 ( 要素 ) なはずなのに強烈な違和感を抱かずにはいられない服飾意識の第六感が痺れる論点でございまして、更にウールとモヘアによる混紡の紳士的な仕立てにおける王道かつ絶対的に妖艶な独自の光沢が縫い合わせの立体感を見事なまでに, それこそ陰ながらそっと押し上げ輝かせるのです。

料理でも創作的で装飾的な味付けや彩りで最上に辿り着く一皿と、素材と技術の根本を活かして最上に辿り着く一皿がございますが、本品はそれで申しあげるところの後者に属します。肉が食べたい日や魚が食べたい日や野菜が食べたい日や米が食べたい日や麺が食べたい日があるのと同じく服飾における装いにも日や季節や直感における様々な御気分が在られることと想いますので、そのどこかで弊店が僅かでもお役に立てれば幸いですが、こと素材と技術の根本を活かした方向性に関しましては引き続き Maison Hermes のこれらには感嘆しないという選択肢が我々にはございません。

 

 

 

 

 

New arrival 90s Hermes, wool&mohair tailored jacket.

なお、“ 線そのもの ” がデザインとなる様は納得のゆく姿で写真に収めることが叶いませんでして、日常においてもきっと着用する本人より周囲の人々がそれをより強く体感することと想います。肉眼かつ実生活において無意識的に発揮される, かつ自身が気付くことのない本領は、だからこそ極めて極めて強烈であり何より絶対的であると私は強く想います。

 

 

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