これは私が想うところですが、弊店に在りますデザイナーやメゾンの品, いわゆる看板がはっきりと分かる品の八割以上は “ 奇才者 ” によるものであり ( 更に申しあげますと、私は弊社各店の扱う品の新旧を問わず同じく想っております ) 、その奇才者たちには社会において広い間口で受け入れられる作風を主に得意とする人物や、受け入れられ辛いながらも受け入れられた際には極めて強い求心力を有する作風を主に得意とする人物が居たりと方向性の分布があり、更にその中には特に稀有な創造性によって表現における前人未到に辿り着いた “ 鬼才者 ” が居る と捉えておりまして、こと Jean Paul Gaultier 氏は私にとって前述の作風で申しあげるところの後者にあたる鬼才者なのですが、彼の世界における正統的な男性性及びそれに伴う紳士性をより直線的に感じて頂けると想える、この度の新作の一着。
この土台となるミリタリー区分での仕立て様式はテーラードジャケットの分野においても特に強い, 文字通り “ 強い ” 個を発揮する傾向であり魅力を有しますが、全体を独善的に調整することで結果的にそれと対を成す軽やかなサマーテーラードに仕上がった一着で、陽を通せばやや透ける綿は否が応でも織りを感じずにはいられない乾いた凹凸感と手触りによりやや重厚なシャツといった軽快な表情を醸し出し、肩以外にほとんどの芯地存在を感じさせないサルトリアの職人技術による実質量的にも体感的にも極めて “ 軽い仕立て服 ” という複雑怪奇な構築を実現しております。
また、これもミリタリー区分での仕立て様式ならではの傾向であり魅力である 前立てを全て閉じることでの重厚な男性性 の演出なのですが、こと本品においてはそれだけに捉われることなく愛して頂きたいと切に想います。 “ これぞモード ” と声を大にせずにはいられない洗練された比翼の顔ですが、それを実現した大きなスナップボタンを留めないことで産まれる前立ての歪み, 個性的な部品に伴う重量によって演出される過大な前立ての歪みは氏からの贈り物という名の作為であると邪推せずにはいられません、私は。前述の軽快な生地の表情ならびに絶妙に延長された着丈の相まるそれは、出で立ちを永遠に歪ませ続ける、 “ 永遠に定まらないという方法で定まる ” 一着でございます。
1990s Jean Paul Gaultier cotton tailored jacket
焚火を見ていてふと気付いたらだいぶ時間が経っていた なんて経験、私だけではないはず。
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