英国では、生粋の鉄道好きや固執して何かに打ち込む者達への表現のひとつに「anorak」というスラングワードがありますが、その影響か、将又、波風が広く及んだかは知る由もなく、ある種のナーディースタイルとしての地位も築き上げている、やはり「anorak」
そもそもとして、主に山岳登山などのネイチャーフィールドにおいて活躍を期待された「anorak」ですので、ナーディースタイルやスラングワードが誕生する隙間はないにしろ、それもひとつのカルチャーと大きく受け入れれば済む話。雨が多く降るイギリスという国で、美しく走る鉄道を一枚でも多く撮りたいひとりの男性が、傘もささずに「anorak」の機能をフル起動させていたことを想うと、きっと両手が空くリュックサックでしょうし、きっと動きやすいコットンパンツでしょうし、おそらく自宅では鉄道関係の書物に目を通さねばなりませんので眼鏡という道具はマストオプションでしょう。女性を知るより鉄道を愛する性分は、オシャレというベクトルは存在せず、髪の毛はあらゆる方角を向き、髭はもう遺伝子と自然の成り行きに。グランストンベリーまで行くため、中心部の駅でうろうろしているところ、ハイウェイマンのレザーを着た若者や、UKロックの熱者達が口を揃えて
「Hey! anorak!」と。
そもそもとして、「anorak」とはフードが付いてる付いていないでは、“ 付いている ” ものをそう呼び、付いていないものは「プルオーヴァージャンパー」とでもなりましょうか。どちらでも構わないのですが、たとえそのフードという画期的機能が付いていないプルオーヴァージャンパーであったとしても、「anorak」について少なからずひとつのカルチャーが存在するとするならば、それはそのまま「anorak」として受け入れたくなります。それに類似するストラクチャーが十二分に備わっていさえすれば。
そもそもとして、「anorak」とは必ずしもプルオーヴァーでなくてはならない規約や法律や国際法はどこにもありませんが、にもかかわらず、世に多く存在しているそれらの「anorak」とはプルオーヴァーなる構造を有しており、単純な思考で臨むなら、プルオーヴァーよりジップ開閉という機能を有しているほうがはるかに便利ではと思う気持ちを片隅に、それにはそれなりの理由というものがきっと存在するので、現在の仕様にて、現在の構造にて、ひとつのカルチャーとして自立するプルオーヴァーであるべきして在ると。
雨が多く降るイギリスという国で、美しく走る鉄道を一枚でも多く撮りたいひとりの男性が、室内でも外出時でも着ているシャギードックセーターの頭上から一苦労に袖を通そうとする姿が容易に目に浮かびますので、ひとまずは、それでいいのでしょう。
90s GUCCI by TomFord anorak pullover
面白さをも排除した1着の「anorak」は、ミニマリズムの極点ではなかろうかと疑うほど、削ぐべくものを削いだ果ての姿。奇しくも同じ90年代、某イタリメゾンネームが頭中に浮かびますが、どちらがどう、という論争には興味が湧かず、ナイロンにコットンを混ぜるべくして、ネイチャー以外のフィールドにも対応させたその「anorak」は、結局のところ「anorak」としてのストラクチャーが十二分に備わっているプルオーヴァージャンパーですが、経営的にも低迷していたGUCCIを盛り上げなければならないムードの中で、トムフォード氏が慎重に世に送り出したのがこの「anorak」だったとしても、純粋にもGUCCIというビックメゾンメーカーのクオリティに恥じない渾身の「anorak」だったとしても、そんな真実は解明せずとも背面に打たれたネームに任せておけば良いことで、これから進もうとする冬の寒さの中、身体を護るべきしてかぶるその「anorak」は、あたたかいセーターの上から一苦労に袖を通し、ハーフジップを気持ちよく上げ、リュックサックを背負い、鉄道の代わりに美味しいグラタンを頬張るべく、玄関のドアを開けるのみ。
恰好付ける輩には「Hey! anorak!」と叫ばせて、グラタンに合うワインを考える。
そう、既に向う処 敵無し。
SURR by LAILA 小林
03-5468-5966
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