少年 / Diary688
19.3.2019

6 歳の頃に自身の愛するテディベアに向けての初めて衣裳を製作した数年後、学校でのスケッチの時間に煌びやかな衣装に身を包む “ 女性 ” の姿を描いた “ 少年 ” は、そのような絵を描いたことを教師に咎められ、それを背中に貼って教室を練り歩くという罰を受けるのですが、その結果周囲の学友たちから向けられたのは憐憫ではなく羨望の眼差しでした。 “ 私も / 僕もそんな絵を描きたい ” そう話す学友たちによって, そもそもその前の教師の発言によってどのような感情が喚起されたのか私には知りきることは叶いませんし、当時の, その国の, その街の教育と少年の心にどのような差異があったか推測することすら叶いませんが、その元少年であり現在では立派な紳士であり天才の一人である彼は最後に “ ファッションは美しい。素晴らしい。愉しい。 ” と声高々と語りました。2018年初冬にパリの劇場で目にした音楽劇での一幕です。

その音楽劇は私のささやかな人生を確実に豊かなものにしてくれた存在であり、既にあった彼への心からの尊敬心をより確かなものにしてくれましたが、私の生業においては彼の世界観におけるより研ぎ澄まされた実物に出逢う機会が少ないと同時に私自身に充分な理解力が備わっていないがため、出逢えた瞬間は喜びよりも物質的な強さに対する驚きが勝ってしまうことが多いのですが、そのような品は向き合う時間が長ければ長いほどに特出した本質的魅力に気付けることが多いです。

 

 

 



“ 蕩ける ” という表現では足りないほどに蕩け、全体的な透け感のみならず各所に糸がかりの透かし紋様が配置された本品は、 1989 年発表時の表現においてはなんと申しますか、野性的と申しますか人類の原始的と申しますか、例えば身体に穴を開けるピアスという存在が装飾目的ではなく魔除けや通過儀礼と捉えていた文化であり時代の世界と申しますか、とにかく大胆な印象を抱きまして、本品におきましても透けと透かし紋様をそのまま素肌に馴染ませ、かつ合わせも原始的な世界観でしたのでやはり奇才であり天才だからこその表現であり世界観であると心からの拍手を送るのですが、いざ自分の世界で向き合いますと蕩ける生地感を何かと重ねた時の表情変化や身幅と着丈の面白みと美しさに溢れる調和や、紋様から醸し出される朴訥とした郷愁などを見出すことができ、発表時の表現はあくまで一例で、その自分が想う新たな世界をもう一例として許容してくれる懐深さに気付き心が暖かくなりました。

 

 

 

 

 

1989s Jean Paul Gaultier embroidery & lace joining detail light weight jacket

ゴルチェ少年が6歳の頃に愛するテディベアに向け製作した人生初のファッションピースは後に人々に衝撃を与えたビスチェと瓜二つであり、教師が咎めると同時に学友たちが羨望の眼差しを向けたスケッチの世界観は服飾史に燦然と輝く彼の表現そのものでした。だからこそきっと先々に彼の世界観におけるより研ぎ澄まされた実物に出逢えたとしたら、きっと同じく最初に驚くのだと想いますが、それが私にとって貴重な純度の高い幸せの一つです。

 

 

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