今にも落ちてきそうな空の下で / Diary654
16.1.2019

弊店の空間特性の一つに “ 異常に降り注ぐ日差し ” がございます。それはカウンターに電子機器を置いておくと熱暴走を起こし冬場でも汗ばみ、 反射で店内の御査収に支障をきたすほどですが気持ちと身体は明快でやはり日差しを浴びると単純に心地良いものですから利点と欠点を天秤にかけたうえで私はその環境を愛して止みませんが、それらを浴びながら夢想にふけるとふと一着のコートとの出逢いが想い出されます。縁あって初めて辿り着いたそこは国境のほど近くにある全体が緩やかな丘状となった土地で、高い建物が一切ない替わりに閉館してだいぶ経っているであろう遊戯場や映画館などの廃墟が点在する小さな小さな港町でして、その日は非情に冷たい海風と異常に降り注ぐ日差しと緩やかな地形が相まって、不自然なほどに大きく感じた今にも落ちてきそうな空の下で得た敗北感という名の貴重な体験と、唯一出逢えた一着のコートがこの度の題目です。

 

 

皆様方と同じく私もこの生業において、自分なりに精一杯の挑戦と精査を意識し日夜取り組んでおります。何かを続けようとすると様々な場面や状況において “ 停滞する ” ことがあり、その一つに鮮度ないし感度が当てはまるのですが、私はその点における停滞に対して極めて強い危機感ともっと言ってしまえば嫌悪感すら感じるがゆえ、以前であれば定期的に髪を紫色や黄金色に染めて気分を変えたり、現在においても折に触れては普段と異なる道中で帰宅したりタワーレコードに足を運んだり、もちろん自身のための買い物を行ったりで必死に鮮度ないし感度を停滞させないよう足掻いているのですが、それは店という空間を創るうえでより顕著でして、そのためにできる大きな要素の一つに “ 新たな出逢いの模索 ” がございます。それは様々な事柄と利便性が発展した現代においても私にとって極めて大きな危険性を有し、だからこそ掛け替えのない取り組みでして、挑戦するイコール大なり小なりの金銭と時間を費やすこととなりますのでそれによって得られる ( 人なのか品なのか可能性なのか ) 収穫の量と質によってはっきりとした結果が現れます。私にとっての新たな出逢いを模索する挑戦は、充足感もしくは敗北感で満ち溢れる残酷なほどにはっきりとした二択です。

その港町でははっきりとした敗北感で満ち溢れました。挑戦は失敗に終わり失意のまま彷徨い歩くことも叶わないほどに小さな街で、出来事といえば少年たちに場所を尋ねられるというくらいだったのですが、ふと引き寄せられて立ち寄ったいわゆる街の小さな雑貨店で一着のコートと出逢うことができまして、それは値札の付いた品ではなく店主の夫である老紳士の持ち物だったのですが、無理を承知でお願いした結果譲り受けることができたのは海風にさらされつくした敗北感に満ち溢れる怪しい風体であったのと、出逢いを願い続けた ( 今でも願い続けています ) 私が知る限りで現存最古期の Burberrys コートゆえの必死さが要因だったのでしょう。



修練の形跡をしとどに感じさせる肉厚ながら柔軟性に富んだ羊毛表情や、同社が後々手掛けることとなった英国王室直属空軍のコートと偶然なのか必然なのか同一な青みがかった特殊な灰色や、男性としての威厳を具現化した各所装飾性や高い腰位置など、文化と歴史に向き合ってきた同社ならではの構築性かつ、現存最古期という要素を差し引いて語ったとて心から御推奨したいと想える一着の服としての純粋な個の力に出逢えたことは、今にも落ちてきそうな空の下で感じた敗北感における真に唯一の救いではありますが、いくら挑戦が大切とはいえこの出逢いは砂漠の中から一粒のダイヤモンドを探し当てるよりも低い確率であり、なにより後にその雑貨店が廃業してしまったため私はその港町に再び足を運ぶことはありません。

 

 

 

 

 


30-40s Burberrys over coat

恥も外聞もなく申し上げますと敗北感は他にも数多経験しておりますが、初めて綴らせて頂いたのは私にとって遠く離れた SURR にいても時たま記憶が蘇るほどに特殊な出逢いの、例えば真夏であっても “ 今御認め頂いて間違いございません ” と全力で胸を張れるほどに純真無垢な個の力を有した一着のコートであるがゆえです。

とても綺麗な海で本当に本当に大きな空でした。あの少年たちは目的地に辿り着くことができたのかな?

 

 

 

 

 

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