御存知の方も多いことと想いますが、このグレーの平織り素材そのものとコートの装いそのものがヨーロッパの労働者文化において王道的な要素となりますので、良い意味でこれまでも数多のブランドやクリエイタ―やメーカーが御手本としてきまして、時に大きく変容した姿で・時にほぼそのままと言える姿で“ 新たな服 ” の体で発表されてきましたし、きっとこれからも発表されてゆくのでしょうが、その服飾史における独立した一つの文化そのものである労働者の衣類の世界においての紛れもない王道という存在価値と数多の御手本とされる存在価値が詰まったその姿は、やはりいつ視ても・どう切り取っても完成されていると、月並みですが素直に強く想います。

かなり幅広い用途が製作・活用されてきたコートスタイルの中でも特にスタンダードな様式であり、かつ50年代の中でも最初の頃という古い構築ですので、インダストリアルな設計の各所に職人的な暖かみを感じる美しい調和が注がれた本品。ボタンの位置や間隔・ポケットの配置・ベルトの留め具合など各所において利便性を感じ続けて頂ける、その点においても完成された一着で、極端かもしれませんが例えば“ 五年間しっかりと愛用して活用していたにも関わらず六年目に新たな有用性を気付かせてくれる ”ほどに高い水準で設計されています。

利便性という点においてより真摯にシリアスにならなくてはいけなかった分野の設計や、その目的意識における純度の高さは、やはりいつまでも説得力があり続けますし、これは贔屓な見方かもしれません ( きっとそうでしょう ) が、トップメゾンの最新作のハイクリエイションなコートを選ぶのと同等の価値もしくはそれ以上の価値と可能性を有するのが、これら服飾史において御手本にされ続けてきた完成された一着の本質ではないかと存じます。

それを、未使用状態＝御自身の手で始めて頂けるという、当たり前の反対側に在る贅沢。御存分に御愉しみくださいませ。