敬愛なる Cerruti。チェルッティではなくセルッティ。皆様、その存在は御存知でしょうか。

1881 年設立という大変に長い歴史はまず綿を軸とした生地専門のメーカーとして始まるのですが、1960 年代頃より生地の製作や研究、提供という立ち位置から更にファッションブランドとしての立ち位置に裾野を広げます。そして長年培った経験と技術力によって結果的にファッションブランド史上初めて“ デザインから製作までを自社で完結させる ”仕組みを成立させた存在と成りました。
更に数多存在するファッションブランドの中でも珍しい“ メンズのクリエイションから始めた ”存在でもありまして、当時の群雄割拠し始める少し前のイタリアンモード創成期に独自の紳士像を構築するに至り、かつパリでデビューするという挑戦的な姿勢も貫いておりました。余談ですが当時のクリエイションチームには、モード史に欠かせない人物が少なくとも二名在籍しておりまして、後に“ モードの帝王 ”と呼ばれる褐色の紳士も、後に“ 身に着ける人物の魅力を邪魔せず押し上げる ”をモットーに三十年以上第一線で活躍する彼女も、セルッティで紳士像の重要要素を沢山学んだとされています。

生地の世界ではイタリア系発音のチェルッティ、ファッションブランドの世界ではフランス系発音のセルッティ ( 弊店はこちらです ) と呼ばれる Cerruti は、前述の通り生地メーカーから端を発しており、その分野も途切れずに続いている点、そして何よりセルッティが来日した際に本国のクリエイションとは異なる製作の背景が主だったために、弊店はまず Cerruti の呼び名にチェルッティとセルッティが在り、更にセルッティにおいても本国クリエイションとそれ以外が存在すると認識しておりまして、その二つは全くもって異なるものと、勝手ながら捉えております。
そうなりますと、本質を是非とも御覧頂きたく前者を探し求めるのですが、なかなかどうして出逢えません。折れそうになる心を支えてくれるのは紛れもなく実物の衝撃でして、それは冒頭の生地専門のメーカーとして始まる　という論点に戻ります。

そう、生地が異常なのです。生地の存在感が異常なのです。例えばはっきりとした高級素材を用いているならば腑に落ちることも多いのですが、コットンであったり本品におけるポリエステルなどの素朴で実用的な素材生成におきましても、同社における長年の経験と実績から成るそこはかとない艶っぽさが宿りまして、この点は写真や映像にて捉えるのは容易ではありませんものの、着用時に人の眼ではしっかりと認識できることと想います。本品はそれこそレインコートであったりの目的性が土台にございますので、エレガントやモードといったベクトルよりも実用性・機能性のベクトルを向いているのですが、そこはかとなくエロティックなのです。

また、ファッションブランドとしての紳士像の発信は極めて視認性が低いかもしれません。それこそ創成期ならではといったところでしょうか。しかしながらほとんど真下に落ちるラグラン・ラインや構築的な可動域、作為的な着丈のコントラストなどからロゴとも装飾とも異なる特に特に静かながらしっかりと燃え盛る情熱を必ずや御体感頂けることと存じます。

とてつもなくプレーンで正統的でありながら、とてつもなく癖が在ります。それは時代が異なるヴィンテージピースという要素性以上に、チェルッティではなくセルッティの本国クリエイションという要素性が在ってこそでございます。