鞄を終わらせる鞄 / Diary730
11.6.2019

ミリタリーやワークの区分でも同じくですが、何かを製作するうえで存在する趣意に対する追求心や深刻性が強ければ強いほど、注がれる要素や配慮に強烈に無垢で美しい存在感が備わると感じているのですが、ミリタリーの趣意軸が “ 生きるため ” であったりワークが “ 働くため ” だとして、例えば “ 救うため ” という趣意軸があり、それを踏まえて最上の職人技術と感性が創り上げた物質があったとしたら、私はどういう感情を抱くのであろうか? とかねてより考えていたわけではありませんが、それはそれは豊かで忘れ得ぬ体感でした。

 

これまた様々な側面を持つイタリアにおいて、その一つである小さな小さな, 御伽噺かのように愛くるしい街のとある空間にて熟成された紳士より譲り受けた一つの鞄は、従来であれば美術館や博物館などのガラスを隔てた環境が相応しく、極々稀に出逢えたとて状態や実用性などに対する評価を踏まえると我々にとって現実的ではないがために、出逢いを求めるもののそれを願うことに虚無感を抱くほどの存在なのですが、私の腕時計を何故か気に入ってくれている紳士にとって特に秘蔵であった約 80 年前に一人の医者による個人発注品であり、現代よりも往診の機会が多かったために当時のその医者にとっての利便性, 実用性に対して極地的に真摯に向き合って設計され、結果的に今を活きる私たち, 特に男性にとって馴染みの浅い形状に仕上がったその鞄を、私は訳あって数時間ほど ( 使ってみたいという想いが無かったと言えば嘘になりますが、使わざるを得なかったのも事実です ) 活用させて頂いた時にふと、例えばペットボトルを立てて収納できたり, 小分けの香水瓶が特殊仕切りに収められたり, 歩きながらでも好物のロッテアーモンドチョコレートが取り出せたり, 畳んだジャケットが楽に収納できたり, 地面にそのまま置いても問題なかったり, 鍵をかけられたり等の驚異的な利便性と実用性と、何よりそれを手にして歩いているという事実から得られる心の豊かさを体感したことによって、救うための趣意軸があり、それを踏まえて最上の職人技術と感性が創り上げた物質が存在するという現実と、これが私の相棒に成ることはないという現実と、これを貴方様にとっての “ 鞄を終わらせる鞄 ” として御推奨するという現実が頭を錯綜し、うっかりジェラートを食べ忘れるところでしたが、なんとか空港で食べることができ、甘さと苦さが混ざり合うこの味もまた鳴々一つの人生か と独り想った次第です。

 

 

 




 

 

 

 

 

40s Hermes personal order doctor bag

実用品として是非に。

 

 

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